紀要1号 報告3
 

実践を重視したハワイ大学の看護教育

塚本惠 1)
 

I はじめに

医療を取り巻く状況は、医療の高度化や専門分化に加えて、人口の高齢化・少子化に伴う医療ニーズの変化、病院医療から地域医療重視への変化、介護保険制度導入に伴う看護・介護提供システムの再編成など目まぐるしく変化している。このような中で、看護職には専門職としての機能や役割の再認識と、質の高い看護実践が求められており、その基礎教育を担う看護大学の役割は大きい。
今回、大学の看護教育のあり方を模索する目的で、ハワイ大学看護学部で研修した。その結果、看護実践者の育成を目的とした、自ら考え、判断し、行動できる能力を養うことに重点をおいた大学教育の実態を知ることができたのでここに紹介し、そこから何を学び日本の現状に取り入れていくべきかについて考えてみたい。


1) 沖縄県立看護大学

 
 

II ハワイ大学の教育

1.ハワイ大学マノア校看護学部教育の目ざすもの

大学案内によると、ハワイ大学看護学部の目的は、初級レベルのジェネラリストの看護専門職として、さまざまなヘルスケアの場でケアを提供できるように教育することである。クリニカル・ナース・スペシャリストやナース・プラクティショナーなどの専門分野のスペシャリストの教育は大学院レベルで行われている。教育の到達目標は、卒業生が、看護ケアの提供者、ケアコーディネーター、専門職業人、知識の開発者として各々の責任や役割を果たせるように教育することであり、そのために大学は学生に看護実践のための理論的・臨床的能力を得る機会を提供し、社会における看護専門職としての自覚と責任を認識させる教育を行っている。到達目標のうち、看護ケアの提供者およびケアコーディネーターについての詳細は、さまざまな領域においてジェネラリストとして専門職看護に従事し、個人、グループ、地域を対象に基本的ケアが提供でき、看護判断の基盤としてクリティカル・シンキング技能を用いることができる、看護の対象となる人々や地域、チーム医療を担当するすべての人々と協力し、質的・文化的に優れたケアを提供するために、リーダーシップや管理能力を用いて調整ができる、と書かれている 1)。この目標の達成の鍵は、専門職看護の理論と実践の両側面に焦点を当てたカリキュラム内容と講義・演習・臨床実習が1セットになったカリキュラムデザイン、学習者中心の教授・学習方法の活用にあると思われたので、それらを中心に述べる。

2. カリキュラム構成

学士課程のカリキュラム 1) は、表1のように、一般教養からなる下級カリキュラム (以下;教養課程) と専門課程の看護カリキュラムで構成されている。専門課程への進学は、教養課程 (ハワイ大学以外でもよい) を良い成績で修了していることが前提である。専門課程だけで6学期かかるので学士課程修了には、教養課程と合わせると最低4年間と1夏学期が必要である。看護専門科目のカリキュラムは、1学期目:Professional Nursing I (専門職看護:基礎看護学に当たると思われるが、ヘルスアセスメントに重点をおいている) とラボ (学内演習や臨床実習)、Psychosocial Nursing Concept (心理社会的看護概念)、2学期目:Professional Nursing IIとラボ、Pathophysiologic Nursing Concept (病態生理的看護概念)、3学期目:成人看護学 I とラボ、精神看護学とラボ、選択科目、4学期目:母性看護学とラボ、小児看護学とラボ、5学期目:成人看護学IIとラボ、地域看護学とラボ、看護研究入門、6学期目:ComplexNursing Practice (総合看護) とラボ、看護管理、Professional Issues & Trends (職業上の論点と動向) のように構成されている。

表1 ハワイ大学マノア校の学士課程カリキュラム

下級カリキュラム (教養課程:1年次)

秋学期 春学期 夏学期
英語 (作文)
解剖学・生理学 I/演習
微生物学
生化学 I
語学


3/1


心理学概説
解剖学・生理学 II/演習
微生物学演習
生化学 II
語学


3/1


人間発達
人文科学

17単位

16単位

6単位


看護カリキュラム (専門課程:2、3、4年次)

第1学期 第2学期
専門職看護 I/W I ※

専門職看護 II

心理社会的看護概念

病態生理的看護概念

薬理学 (秋学期のみ) ※※

栄養学

文化人類学

人文科学

語学

3-4

語学

3-4

17-18単位

17-18単位

第3学期 第4学期
成人看護 I/W I

母性看護

精神看護

小児看護/W I

看護学選択科目

世界史 II

世界史 I

統計学

15単位

16単位

第5学期 第6学期
成人看護 II

総合看護/W I

地域看護/W I

看護管理

看護研究入門

職業上の論点と動向

看護学選択科目

人文科学

15単位

15単位

※WI (Writing Intensive Course) : 文章の正しい書き方を学習する集中講義
  専門科目に併設され、 その分野での適切な表現や論述について学ぶ。
※※薬理学:秋学期にしか開講されないので、 看護専門課程に春学期から進学
  したい学生はそれ以前に履修しておく必要がある。

3. 講義との組合せで行われる臨床実習

日本の看護教育カリキュラムにおける臨床実習は、実習施設の関係もあって、ほとんどの学校で講義を中心とした授業が終了したあとに一定の期間を設けて一斉に行われている。これに対し、ハワイ大学の時間割は講義とラボが1セットとして同時進行で組まれており、教室で学習したことをすぐに実践し体験を通して統合できる、また逆に臨床の場で体験したことを教室の学習で確認できるようになっている。実際に参加した科目を例にとると、Professional Nursing I は、月曜の 11:30-13:20 が講義、13:30-16:30 および木曜の 14:00-20:30 がラボであった。講義内容は学年の始めに当たっていたので、看護におけるヘルス・アセスメントの重要性と概要、面接技法についてであり、演習では二人一組になってお互いの完全な健康歴の聴取と、血圧測定の練習をしていた。各演習項目は教師の試験に合格しなければならず、学生は真剣に取り組んでいた。次の週には病院でこれらの項目について患者に協力してもらって実習するとのことであった。健康歴は、病院で日常的に使用されている医学用語や略語を用いて記録できるように訓練がなされており、大学と実践の場が直結した教育であるとの印象を受けた。学生は最初の1学期の間に系統的なヘルス・アセスメント、データ収集と分析、コミュニケーション技術や面接技法、グループ・プロセスを学習するとのことであった。2学期目の、Professional Nursing II では、実践職業としての看護への入門、看護過程の活用、人間のニーズに対する看護介入について学ぶことになっている 1)。このように、学生は Professional Nursing の科目で専門職看護に必要な基本的理論と技術を学ぶわけである。技術の習得については、演習室で自分で練習したり、必要に応じて教師の指導を受けることができるシステムになっており、Professional Nursing だけでなく成人看護などの科目であっても、実習の前に自信のない技術があれば練習して確かなものにしておかなくてはならないとのことであった。

4. 臨床実習における大学教員の役割

成人看護学 I の臨床実習を見学する機会を得たが、学生は日勤シフト (午前7時から午後3時) の申し送りに間に合うように6時半には病棟に出ていた。受け持ち患者は、低学年のうちは教員が病院スタッフと調整して決めるが、高学年では自分でスタッフと調整する。実習前日のうちに自分で情報収集をし看護計画を立てて、当日はすぐにケアにかかれるように準備しておかねばならない。臨床指導における日本との大きな違いは、病院側の臨床指導者ではなく大学側の教員が学生の行動について全責任を負っていることである。学生は受け持ち患者についてあらゆる看護を実施するわけであるが、この日教師は、とくに薬剤管理と傷のケアについて、10数名の学生が全員正しく行えるように、薬の作用と患者の疾患との関係、投与方法、傷の処置の手順、観察事項などについて、学生の知識や技術を一つ一つ確かめながら指導にあたっていた。彼女は以前にその病院で働いていたとのことで病院スタッフとの関係は親密で、施設や薬剤管理・医療処置についてよく知っている。また最近入った新しい機械に気づくと、スタッフに使い方を聞いて、自分の知識をすぐにアップデイトしていた。学内での講義も受け持っているとのことで、実践を重視した教育の姿勢を感じた。学生は2時までに記録・報告を終え、3時まではカンファレンスがもたれた。実習の初日のためもあって、教師はほとんど休憩も取らずに指導をしていたが、学生も時間のマネージメントを大切にして真剣に実習に取り組んでいる様子が印象的だった。

 
 
5. 自己学習力とクリティカル・シンキング能力を培う教育方法

シラバスには、コース概要、コース目標、教育方法、評価方法、教科書、スケジュール、学習の手引きが示され、学生はどのように学んで行けばよいのかよくわかるようになっている。そして目標に到達できるように、講義と実習の組み合わせで教育が展開されている。教育方略の特徴は、少人数グループでの学習、授業へのインターネットの活用であると感じた。教師は黒板に板書する代わりに学生向けウェブサーバー (http://www.hawaii.edu/nursing/) に授業内容を書き込む。学生はシラバスに提示されている1回当たり20~30ページの教科書や参考図書の購読宿題をして授業に臨むことになっている。WebCT はあとで反復して見ることができるので、学生は写す必要がない。教師が概要を説明し発問したり、学生が質問したりと、教師と学生のやり取りで授業が進められる。WebCT を多用するようになったのはここ2年ぐらいとのことである。
ハワイ大学看護学部の教育の考え方は、Inquiry BasedLearning (以下;IBL) という教育哲学に基づいている。IBLは、大学が学生に何を学んで欲しいかを明らかにした結果産み出されたもので、教師が学生に知識を詰め込むのではなく、学生は大人の学習者として自己学習してほしいしそれが可能だとの考え 2) に基づいた“柔軟性があり、かつ開放的で、チューターと学生の多様な能力や資源を引き出す学習志向方式”と位置づけられている。原理原則は、臨床場面に類似した状況設定の事例を用いて、少人数グループ単位の学習指導プロセス (チュートリアル) を行い評価をしあうProblem BasedLearning (以下;PBL) の方法を踏襲しているが、従来の講義と設問スタイルが残されているところがPBLと異なる 3)。チュートリアルにおける教師の役割は、何を学習させるか学習目標を明確にして、その目標に適した事例を用意する。学生の主体的学習が起こるように環境、資源を整え、側面からチューターとして学習体験をガイドし促進することである。PBLやIBLによる学習については、問題解決能力とクリティカル・シンキング技能を発達させることが検証され、大学教育に多く取り入れられている 3)。

6. 地域看護学におけるIBL学習モデル 4)

ハワイ大学では、各教師がIBLの哲学に基づきながら異なる学習モデルを構築しているとのことなので、授業に参加した地域看護学の教育方法を紹介したい。
地域看護学は約20名の学生がとっており、学内での講義は全学生を一人の教授が担当して行い、実習は2ヵ所の保健所に分かれ片方をもう一人の教師が指導している。最初の2日は、地域における看護の役割や地域看護の基本となる概念についての講義で、その後は大学での各論の講義と、保健所を中心とした実習および学生によるケース・カンファレンスによって理論の実際への適用を学んでいく。実習では、地域看護における特徴的な問題を抱えた家族や個人へのケアやマネージメントについて、保健婦が把握しているケースを実際に受け持ちながら学ぶことになっている。スタディケースとして、健康上の問題に虐待もからんだ児童、小さな子どものいる家族、思春期の問題や十代の妊娠、子育てのケース、慢性疾患を抱えた成人、老人が取り上げられており、学生は、子どもの虐待と健康問題、若年者の薬物乱用と妊娠、その結果生まれた子どもの精神遅滞、痴呆の独居老人など、複雑な問題を併せ持ったケースを2~3ケースずつ受け持っていた。受け持ったケースの住む地域の診断を行うが、ハワイは多民族が住んでいるので、民族による健康概念や生活様式の違いも知らなくてはならない。家庭訪問は、最初の2週間は保健婦が同行するが、その後は単独訪問もするし教師が加わることもあるとの説明だった。
  地域看護学の学習課題には、地区診断、健康教育などのグループプロジェクトなどもあるが、最重視されるのが個人でのケーススタディと、ケースを用いたIBLのグループ学習である。このグループ学習は4パートからなるが、シラバスには次のように説明されている。
1) ケーススタディの準備:担当学生は5つのスタディケースの1つについて、自分のケースを一定のフォーマットにしたがってまとめ、ケースカンファレンスの24時間前までに WebCT に提示する。他の学生はこれを読み、コピーをとって実習場でのカンファレンスに持参する。
2) Inquiry Process (学生が主体的に課題を見つけ探求的に学習していくプロセス) :カンファレンスには全学生、教師、ケースを担当している保健婦が参加する。
A. ケーススタデイの担当学生は事例を紹介し、カンファレンスの司会者として学習の促進役を務める。
B. 全員で、事例の状況について既にわかっている情報は何かを明らかにする。情報の意味、情報間の関係、状況を考えていく上で手がかりとなる事例の強い点、弱い点、障害となっている事柄について話し合う。
C. 何が、どのような理由で状況を改善できるかについて、改善可能な問題点、看護介入のための推論や仮説、好ましい改善と期待される結果、個人・家族・地域への看護介入の方法とその理由付けについて話し合う。
D. 状況のより良い理解と問題解決にのために、さらに調査すべき情報や学習して調べる必要がある項目を明確にする。
E. 書記の学生は、調べる項目をそれぞれの学生に割り当て、クラス終了後24時間以内に WebCT の掲示板に提示する。
3) 各学生による自分の担当項目の調査およびレポート作成:レポートは、地域看護学が writing intensivecourse (論文の書き方の集中講座) を兼ねているので、基準とされているAPA (アメリカ心理学会) のフォーマットにしたがって書かなければならない。文献の丸写しではだめで、少なくとも1つの専門誌や教科書の最近のリサーチ記事を参照すること、調べた結果と事例の状況を結びつけ、考えられる介入の提案やその効果を述べることが求められている。学生は1週後に行われる次のクラスディスカッションの24時間前までに、自分の調べた内容と参考文献を WebCT に提示する。
4) ケーススタディのまとめと振り返り (1週後) :
A. 司会者は、前回提示した事例について要約を述べる。グループメンバーは、それぞれが調べた内容の概要を報告し、その結果に基づいてケアへの提案を述べ合う。
B. 司会者はディスカッションをまとめ、事例が直面している問題に対応するにはどうすればよいか、新しく得られた情報に基づいて、ケアのプランを方向づける。
C. グループの学習過程や参加状況はどうだったか、ディスカッションの成果は理論に基づいていて、現実の場に有効なものか、知識は深まったか、ケアプランの実践を阻んでいた障害とその改善策は見つかったかなどについて振り返り、互いに自分の考えを述べ、評価をしあって学習を締めくくる。
  IBLによるケースカンファレンスは全部で5回、前述したスタディケースにつき各1回づつもたれることになっている。研修期間の関係でケースカンファレンスには参加できなかったが、学生が家庭訪問を開始した最初の時期に居合わせることができた。彼らの取り組みは前向きで、その後の学習の進展が期待された。学生は、講義で理論的に学ぶ一方、実習でクライアントや家族、地域、学校、病院、その他の機関の人々との関わりや協力、交渉や調整、総合的アセスメントやケアプラン実施の試行錯誤を通して知識と経験を統合し、学びを確実なものにして行くのだろう。そこから、主体的学習態度やリサーチ技能、思考力や判断力が育つであろうことが、シラバスから十分に推察された。

7. 大学教員の臨床実践への取り組み

専門職看護を実践職業と捉え教育するには、教育者の実践活動も重要であると考えるので、ハワイ大学の看護教員の考えや臨床実践について知りたいと思っていた。ハワイ大学の教員規定によると、正規の教員になるには博士号が必要とのことで、出会った教授は全員博士号を持ち、さらに上級実践看護婦としてそれぞれクリニカル・ナース・スペシャリスト、ナース・プラクティショナー、糖尿病の教育者、ホリスティック・ナーシングの健康と癒しの教育者などの肩書きをもっていた。米国では専門分野の資格の維持には、ある一定の臨床実践の続行が義務づけられている。そこでハワイ大学では、看護教員は週8時間、大学以外で臨床実践をする権利を持ち、ナースクリニック、病院、老人施設、糖尿病教育機関、健康と癒しセンターなどで臨床実践を定期的に行っている。また専門分野の最新の知識や技術を保持しておくことの重要性について、教師間で共通認識をもっているとのことだった。専門職看護の実践者・研究者・学習者としてよいモデルを示すことは教育上重要であり、大学教員の臨床実践については日本でもこれから取り組むべき課題であると感じた。

 
 

III 考察

1. 米国における看護の学士課程教育とハワイ大学の教育の特色

ハワイ大学看護学学士課程の教育目的は、幅広い看護領域において看護専門職のジェネラリスト (スペシャリストではなく) として職務を遂行できる能力を育成することであり、卒業時の到達目標は、基本的ケアができること、クリティカル・シンキング能力を用いて判断できること、多領域の人々と連携・協力・調整ができること、専門職業人としての認識を持ち責任を果たせることである。大学案内のこの文言を最初に読んだ時、なんと明快なと驚くと同時に、それまで私のなかで漠然としていた大学が担うべき看護教育の使命や目標が明確になった。単に看護のノウハウを教育するのではない、大学だから科学的知識にあふれた教養ある人物を作り出しさえすればよいのでもない、看護を実践できる人を教育するのである。看護は人間を対象とした実践の科学であり、その人間を取り巻く環境は多くの問題や変化をはらんでいるのだから、真に看護を実践できる人材を育成するということは容易なことではない。
  米国では、すでに1948年の Brown レポートにおいて、看護現場における責任者、管理者たるには学士課程 (BSN) の学歴は最低限必要であると支持され、保健看護、学校看護、ならびに大学院教育のためには学士課程はなくてはならぬものと認識されてきた。1965年にアメリカ看護協会が看護界自身の要請と社会の要請によって、専門職としての看護業務に携わるためには学士課程終了が最低限の条件であると明記した。学士課程教育の理念は1979年アメリカ看護連盟によって明文化され、1987年には見なおしと強化がなされている。BSN課程に共通する教育理念は、Registered Nurse (登録看護婦)としての基本的な看護技術の習得、疾病になってからの対処のみならず、疾病予防や保健啓蒙を通しての健康維持という範囲までカバーできる能力の会得、保健医療現場において管理指導的立場に立つためのリーダーシップについての十分な知識と訓練、と要約される 5)。 ハワイ大学看護学部はこの教育理念に基づいて、教育目的、到達目標が立てられていることがわかる。教育内容や方法については、アメリカ看護連盟の教育委員会が定める看護教育カリキュラム基準に準拠しつつ、各大学が特色ある教育を行っている。
  ハワイ大学のカリキュラム編成、各シラバスの目標、教育内容、教育方略は、看護専門職の基礎教育はどのようにすれば達成できるかを示したよい例であると思う。カリキュラムの科目構成については、日本の看護系大学との比較において特に目新しいものは見られないが、看護課程への進学要件として一般教養科目の成績を重視し、その上に専門科目が立てられていることは、人間を対象とする看護婦にとって幅広い人間性や教養を養う上で重要なことであろう。看護課程の教育内容の特色は、正確な看護判断ができるためのアセスメント能力の育成と、看護を実践するためのケアの技術教育に重点をおいていることであろう。アセスメント教育を例に取ると、米国の看護学士教育におけるアセスメントは,病歴聴取とフィジカル・アセスメントを系統的に完全に行うことができるようになることが教育目標である。ここでいう完全な病歴とは、主訴、現病歴、既往症、家族歴のみならず、環境背景、経済背景、文化背景などすべてを含み、クライエントを全人的 (holistic) に把握するためのもれない情報収集作業である。フィジカル・アセスメントにおいては、生態兆候 (vital sign) の把握にとどまらず、頭の先から足の先まで (head to toe) の視診、触診、打診、聴診のすべてを行えることが求められている 6)。ハワイ大学の教育内容もこれにそって構成されている。教育内容とともにそれをどのように教育するかが異なった結果を生むのであり、ハワイ大学の教育からは学ぶ点が多いと考える。

2. 臨床実習の位置付け

臨床実習の取り上げ方の違いについて考察する。杉本は 「あらゆる看護の展開される状況の中で、科学的知識を生きた環境において実践し、教室における講義と演習で得た知識、技術を統合、深化する学習形態であり、更に既得の知識、技術を検証することが実習という授業である。」 7) と述べ、阿部は、De Young の 「臨床自習の目的は、理論と臨床が学生の体験において1つになることである」を引いて、そのためには学習者は、概念、法則、命題など講義で学んだことを応用する機会が必要である 8) と述べている。本質的には同じであろうが、杉本の定義からは講義、演習、実習という順序で学習がなされて知識と技術が統合されると読み取れる。日本では多くの場合この順序でなされ、講義の終了後に一定の期間を設けて、しかも臨床実習は別科目の授業として展開されてきている。ハワイ大学の場合は、講義と演習や実習がI セットとして授業が展開されている。アセスメント能力を身につけ、看護技術を学ぶ上では、このような授業展開がきわめて有効であると考える。講義と実習が平行して行なわれることによって講義で学習したことをすぐ演習や臨床場面で体験的に学ぶことができる。また、実習が講義で得た知識の検証の場であるだけでなく、実習の場での疑問や仮説が学習への動機付けになったり、講義で検証されたりというような学習効果も生み出していると考えられる。この利点のほかにも、実習を講義と平行して、週のうち決まった曜日のみに行うことは、働きつつ学ぶステップアップコース (RN免許保持者で学位を持っていない者のための学士取得のコースで、ハワイ大学でも開設している) の学生にとっては履修がしやすく有用であり、米国では一般的に採用されている 5) とのことである。日本のような実習期間を設けて一斉に行うやり方は、既得の知識と技術を総合的に応用しながら、患者を継続的にケアして学ぶ上では好都合であるが、科目によっては講義と実習を平行して展開するほうが教育効果が大きいのではないだろうか。しかしこの方法を採り入れるためには、実習場の確保や大学からの距離の問題、実習指導を病院の実習指導者に依存しがちな現在の指導体制など、解決しなければならない課題も多い。大学教員の臨床能力もその1つであり、教員が看護職としての臨床活動を維持しながら教育に携わり、専門領域における理論と実践両面の能力を維持できるように、教員自身の努力と法的整備が必要 9) であろう。

3. IBL教授・学習方法の効果

医療をめぐる情報量が増加を続け、ヘルスケアシステムが変化する中で、看護職としての職務を遂行できる能力を教育するにはどうすればよいだろうか。講義によって画一的に知識を覚えこませることは不可能に近い。必要とされるのは自分で学ぶことができる自己学習の能力である。一方知識だけあっても思考のスキルを働かせなければ、看護過程を踏んで適切な看護へとつなげることはできない。そこで、看護過程のどの段階でも必要とされ、臨床判断能力に大きな差をもたらすのがクリティカル・シンキング 10) である。すなわち、批判的思考、分析的な問題解決、臨床的な推論、そして主体的な意思決定の高度な技能である。医学における教育方法を改革するために,カナダのマクマスター大学医学部でPBLが開発された 3)。前述したようにIBLはPBLを踏襲している。
  モデルとして示した地域看護学のケーススタディでわかるように、学生は自分たちで事例の状況について事象の意味を考え知識と照らし合わせながら吟味し、足りない知識を自己学習によって補い、再び自分と他の学生の情報も合わせて考えたり批判したり吟味して、問題への解決策や答えを見出していく。このように探求的に学ぶプロセス (Inquiry Process) によってクリティカル・シンキング能力、判断能力、自己学習力が育つわけである。
  IBLの、 教師が知識を教え込むのでなくチュターとして側面から援助し、学習目標に到達できるように助言をしながら、学生を主体にして学習を進めていくIBLの考え方はすばらしい。私も昨年前任地の短大においてIBLの活用を老人看護学の授業で試みた 11)。しかし教師も学生も講義による授業に慣れきっており、教師がIBLで重要なチューターの役割を適切に果たせなかったことや、学生側はIBLの学習方法がわからず、形式的にはプロセスを踏んでいても、探求的に学ぶ面白さや成果には到達できない結果に終わり、多くの課題が残された。この教育ができるためには、教師側の経験に裏打ちされた知識や技量とともに、学生側の学習者としての意識が必要と思われる。

 
 

IV おわりに

 ハワイ大学での2週間の研修を終えて、一番印象に残ったのは、学生の主体的な学習態度である。クラスでのディスカッションへの参加度、病院や保健所での“関心をもって”取り組んでいる様子を見るにつれ、学生側の学習の目的やニーズと大学の提供する教育のあり方が適合しているとの感想を持った。その最大の理由は、大学の目的と到達目標が明確で、それを達成できる高いレベルの教育を行っていることであろう。その背景には、米国における大学の看護教育の歴史と、研究と実践によって検証し形成されたスタンダードの確かさがある。日本の大学における看護教育は米国に比べると歴史が浅い。将来は大学のすべての卒業生に専門職看護における能力を保証できるように、教育の制度・内容・レベルにおいて発展し成熟する必要がある。
  ハワイ大学の看護教育は、実践的専門職業である看護の基礎教育として極めて有効と思われる。中でもアセスメント能力育成を重視した教育内容、教育方法としての講義と実習の有機的組み合わせ、少人数グループによるIBL教授・学習方法、論述の力をつける書く訓練、臨床実践を重視し実行している教員の姿勢からは学ぶ点が多く、日本の教育の中に是非取り入れて行きたいと考える。

 
 
文献

1) 1997-1999 ハワイ大学マノア校健康科学・社会学部案内
2) 川野雅資:IBLとは―ハワイ大学での実践から, Quality Nursing, 5(10), 5-7, 1999.
3) Jillian Inouye:PBLとIBL, 日本の看護教育についての文献研究, Quality Nursing, 5(10), 59-65, 1999.
4) ハワイ大学看護学部地域看護学シラバス
5) 山内豊明:アメリカにおけるBSN (看護学学士) 取得コース, Quality Nursing, 3 (7), 45-52, 1997.
6) 山内豊明:米国看護の資格制度・教育制度にみるアセスメント・レベルの階層性の検証, QualityNursing, 3(9), 36-43, 1997.
7) 杉本みど里:看護教育学第2版増補版, 190, 医学書院, 1992.
8) 阿部俊子:臨床実習, 看護教育, 37(10), 828-831, 1996.
9) 山内豊明:これからの教員の役割と責務 カリキュラム開発に向けて, 看護教育, 40(1), 21-27, 1999.
10) Rosalinda Alfaro-LeFevre:Critical Thinking inNursing, 1995, 江本愛子監訳, アルファロ看護場面のクリティカルシンキング, 45-51, 医学書院, 1996.
11) 内山純子, 塚本惠, 高森恵:老人看護学の授業におけるIBL教授・学習方法導入の試み, 神奈川県立衛生短期大学紀要, 31, 13-23, 1998.

 
 
▲ページトップ
×閉じる
Copyright © Okinawa Prefectural College of Nursing.All Rights Reserved.

沖縄県立看護大学  〒902-0076 沖縄県那覇市与儀1丁目24番1号
TEL:098(833)8800 (代表)  FAX:098(833)5133