II ハワイ大学の教育
1.ハワイ大学マノア校看護学部教育の目ざすもの 大学案内によると、ハワイ大学看護学部の目的は、初級レベルのジェネラリストの看護専門職として、さまざまなヘルスケアの場でケアを提供できるように教育することである。クリニカル・ナース・スペシャリストやナース・プラクティショナーなどの専門分野のスペシャリストの教育は大学院レベルで行われている。教育の到達目標は、卒業生が、 看護ケアの提供者、 ケアコーディネーター、 専門職業人、 知識の開発者として各々の責任や役割を果たせるように教育することであり、そのために大学は学生に看護実践のための理論的・臨床的能力を得る機会を提供し、社会における看護専門職としての自覚と責任を認識させる教育を行っている。到達目標のうち、看護ケアの提供者およびケアコーディネーターについての詳細は、さまざまな領域においてジェネラリストとして専門職看護に従事し、個人、グループ、地域を対象に基本的ケアが提供でき、看護判断の基盤としてクリティカル・シンキング技能を用いることができる、看護の対象となる人々や地域、チーム医療を担当するすべての人々と協力し、質的・文化的に優れたケアを提供するために、リーダーシップや管理能力を用いて調整ができる、と書かれている 1)。この目標の達成の鍵は、専門職看護の理論と実践の両側面に焦点を当てたカリキュラム内容と講義・演習・臨床実習が1セットになったカリキュラムデザイン、学習者中心の教授・学習方法の活用にあると思われたので、それらを中心に述べる。
2. カリキュラム構成 学士課程のカリキュラム 1) は、表1のように、一般教養からなる下級カリキュラム (以下;教養課程) と専門課程の看護カリキュラムで構成されている。専門課程への進学は、教養課程 (ハワイ大学以外でもよい) を良い成績で修了していることが前提である。専門課程だけで6学期かかるので学士課程修了には、教養課程と合わせると最低4年間と1夏学期が必要である。看護専門科目のカリキュラムは、1学期目:Professional Nursing I (専門職看護:基礎看護学に当たると思われるが、ヘルスアセスメントに重点をおいている) とラボ (学内演習や臨床実習)、Psychosocial Nursing Concept (心理社会的看護概念)、2学期目:Professional Nursing IIとラボ、Pathophysiologic Nursing Concept (病態生理的看護概念)、3学期目:成人看護学 I とラボ、精神看護学とラボ、選択科目、4学期目:母性看護学とラボ、小児看護学とラボ、5学期目:成人看護学IIとラボ、地域看護学とラボ、看護研究入門、6学期目:ComplexNursing Practice (総合看護) とラボ、看護管理、Professional Issues & Trends (職業上の論点と動向) のように構成されている。
表1 ハワイ大学マノア校の学士課程カリキュラム
下級カリキュラム (教養課程:1年次)
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| 秋学期 |
春学期 |
夏学期 |
英語 (作文)
解剖学・生理学 I/演習
微生物学
生化学 I
語学 |
3
3/1
3
3
4
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心理学概説
解剖学・生理学 II/演習
微生物学演習
生化学 II
語学 |
3
3/1
2
3
4
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人間発達
人文科学 |
3
3 |
17単位 |
16単位 |
6単位 |
看護カリキュラム (専門課程:2、3、4年次)
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| 第1学期 |
第2学期 |
| 専門職看護 I/W I ※ |
5
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専門職看護 II |
5
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| 心理社会的看護概念 |
3
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病態生理的看護概念 |
3
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| 薬理学 (秋学期のみ) ※※ |
3
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栄養学 |
3
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| 文化人類学 |
3
|
人文科学 |
3
|
| 語学 |
3-4
|
語学 |
3-4
|
17-18単位 |
17-18単位 |
|
| 第3学期 |
第4学期 |
| 成人看護 I/W I |
5
|
母性看護 |
5
|
| 精神看護 |
5
|
小児看護/W I |
5
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| 看護学選択科目 |
2
|
世界史 II |
3
|
| 世界史 I |
3
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統計学 |
3
|
15単位 |
16単位 |
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| 第5学期 |
第6学期 |
| 成人看護 II |
5
|
総合看護/W I |
7
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| 地域看護/W I |
5
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看護管理 |
3
|
| 看護研究入門 |
3
|
職業上の論点と動向 |
2
|
| 看護学選択科目 |
2
|
人文科学 |
3
|
15単位 |
15単位 |
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※WI (Writing Intensive Course) : 文章の正しい書き方を学習する集中講義
専門科目に併設され、 その分野での適切な表現や論述について学ぶ。
※※薬理学:秋学期にしか開講されないので、 看護専門課程に春学期から進学
したい学生はそれ以前に履修しておく必要がある。 |
3. 講義との組合せで行われる臨床実習 日本の看護教育カリキュラムにおける臨床実習は、実習施設の関係もあって、ほとんどの学校で講義を中心とした授業が終了したあとに一定の期間を設けて一斉に行われている。これに対し、ハワイ大学の時間割は講義とラボが1セットとして同時進行で組まれており、教室で学習したことをすぐに実践し体験を通して統合できる、また逆に臨床の場で体験したことを教室の学習で確認できるようになっている。実際に参加した科目を例にとると、Professional Nursing I は、月曜の 11:30-13:20 が講義、13:30-16:30 および木曜の 14:00-20:30 がラボであった。講義内容は学年の始めに当たっていたので、看護におけるヘルス・アセスメントの重要性と概要、面接技法についてであり、演習では二人一組になってお互いの完全な健康歴の聴取と、血圧測定の練習をしていた。各演習項目は教師の試験に合格しなければならず、学生は真剣に取り組んでいた。次の週には病院でこれらの項目について患者に協力してもらって実習するとのことであった。健康歴は、病院で日常的に使用されている医学用語や略語を用いて記録できるように訓練がなされており、大学と実践の場が直結した教育であるとの印象を受けた。学生は最初の1学期の間に系統的なヘルス・アセスメント、データ収集と分析、コミュニケーション技術や面接技法、グループ・プロセスを学習するとのことであった。2学期目の、Professional Nursing II では、実践職業としての看護への入門、看護過程の活用、人間のニーズに対する看護介入について学ぶことになっている 1)。このように、学生は Professional Nursing の科目で専門職看護に必要な基本的理論と技術を学ぶわけである。技術の習得については、演習室で自分で練習したり、必要に応じて教師の指導を受けることができるシステムになっており、Professional Nursing だけでなく成人看護などの科目であっても、実習の前に自信のない技術があれば練習して確かなものにしておかなくてはならないとのことであった。
4. 臨床実習における大学教員の役割 成人看護学 I の臨床実習を見学する機会を得たが、学生は日勤シフト (午前7時から午後3時) の申し送りに間に合うように6時半には病棟に出ていた。受け持ち患者は、低学年のうちは教員が病院スタッフと調整して決めるが、高学年では自分でスタッフと調整する。実習前日のうちに自分で情報収集をし看護計画を立てて、当日はすぐにケアにかかれるように準備しておかねばならない。臨床指導における日本との大きな違いは、病院側の臨床指導者ではなく大学側の教員が学生の行動について全責任を負っていることである。学生は受け持ち患者についてあらゆる看護を実施するわけであるが、この日教師は、とくに薬剤管理と傷のケアについて、10数名の学生が全員正しく行えるように、薬の作用と患者の疾患との関係、投与方法、傷の処置の手順、観察事項などについて、学生の知識や技術を一つ一つ確かめながら指導にあたっていた。彼女は以前にその病院で働いていたとのことで病院スタッフとの関係は親密で、施設や薬剤管理・医療処置についてよく知っている。また最近入った新しい機械に気づくと、スタッフに使い方を聞いて、自分の知識をすぐにアップデイトしていた。学内での講義も受け持っているとのことで、実践を重視した教育の姿勢を感じた。学生は2時までに記録・報告を終え、3時まではカンファレンスがもたれた。実習の初日のためもあって、教師はほとんど休憩も取らずに指導をしていたが、学生も時間のマネージメントを大切にして真剣に実習に取り組んでいる様子が印象的だった。
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