紀要3号 報告1
 

学生の主体的な学習を支える場としての看護実習室づくり

名城一枝1) 大田貞子1) 金城忍1) 棚原節子1) 嘉手苅英子1)

 
 

基礎看護学教室では、 '繰り返し身につける'という技術学習の特徴から、学生の主体的な学習を支える場としての '実習室づくり'を開学の年から行ってきた。
「いつでも使える実習室」を標語に、一定時間帯の実習室の開放と、実習室を常に使える状態に整えることの2つを念頭に体制を整えてきた。
実習物品を教材としてとらえ、実習物品の収納方法と片づけ方を取り決めた。実習物品の収納場所が分かるよう実習室と準備室の見取り図と物品配置図を作成し実習室内に掲示した。また、使用後の物品は、物品の性質に合わせた片づけ方を示した。そうしたことで、学生は自力で準備から片づけまでをできるようになっている。実習室の開放とクラスや学年を越えて学習の場の共有をはかったことは、学生にとって空き時間を利用しての時間効率につながっている。また、場の共有は学年を越えて学びあう相乗効果も生みだしている。これらのことから、我々の'実習室づくり'は、学生の主体的学習を支える場として機能していると言える。

キーワード:看護実習室、看護技術教育、主体性

 
 

I.はじめに

本学の基礎看護学教室の‘実習室づくり’は、 1999年4月の開学と同時に始まった。 その年の10月に開講される 「看護方法I」 の準備として、 看護基本技術の学習の場である看護実習室をどのようにつくるかは我々にとって大きな課題であった。
看護実習室は、 実際の対象に適用できる技術の修得を目標に据え、 基本技術を繰り返し身につけるための学習の場である。 我々は、 この‘繰り返し身につける’という技術学習の特徴から、 学生が主体的に学習できる環境づくりが重要であると考えた。
看護技術の修得には時間を要することから、 学生が主体的に取り組める方法や学習の効率化をはかる様々な教育方法が検討され積み重ねられてきている。 稲垣の「基礎看護技術教育のシステム化」 1) による報告では、 基礎看護技術教育にコンピュータを利用した教育方法を取り入れ学生の自主性が高まったとする報告があり、 教育方法の工夫によって学生の学習効果が高まることは周知のことである。 看護技術修得の場である実習室のありようは、 技術学習の効率を大きく左右することから、 学習の場づくりとしての看護実習室の整備・運営には多くの時間や努力を要している。 千葉大学看護学部基礎看護学講座は、 学生が自己を客観視できるよう<ビデオチエック-自己評価システム>で実習室の視聴覚機材配置に工夫をし紹介している 2)。 また、 宮崎県立看護大学は、 学生の自己学習を助ける<学習支援システム>の教材作成室と実習室とのつながりに工夫をし紹介している 3)。 このように実習室での学習効果を期待し教育方法に視点を当てた報告はあるが、 学習の場としての看護実習室を教育方法との関連で示している文献は見あたらない。
本稿では、 開学当初より取り組んでいる‘実習室づくり’について報告し、 学生の主体的な学習を支える場となりえているかという観点から考察する。

 
 

II.基礎看護学教室における'実習室づくり'

1. 流動性をもたせた実習室内配置

1) 実習室の基本形の設定

本教室における看護技術教育は、 グループ学習を中心とした<自己学習-グループ学習-個別指導-自己評価>システム 4) によって展開している。 学生は看護技術の立体像を明確に描き、 描いたイメージに導かれながら繰り返し練習することによって体に定着させることを学習課題として求められる。 技術の立体像とは、 技術の行動のポイントとその根拠と目的とがつながりあって描けた像を意味している。 このようなイメージづくりは、 個別な対象にあわせて基本技術を適用できるようになるための不可欠な取り組みと考え実習室の基本型として、 行動に先立って当該技術の立体像を描くためのテーブルコーナーと、 技術練習を行うためのベッドコーナーを設けた。
テーブルコーナーには、 教卓や一斉授業用視聴覚機器ラックの他、 学習用テーブルと、 ビデオ教材を備えたビデオ視聴用モニターラックをグループ毎に1台設置した。 これらは、 すべて可動式である。 立体像を描くための学習は一斉授業とグループ学習を組み合わせながら行う。 授業時間中にモニター等の位置を移動することは、 時間のロスだけでなく授業の流れを中断し学生の集中を妨げる。 そこで、 テーブルやモニターの配置は、 これら2つの異なる授業形態に対応できる形を考える必要があった。 授業中の学生の不自然な姿勢や授業後に寄せられた意見から、 モニターが見えにくかったりブラインドの隙間から差し込んだ光で画面が見えにくい席に気づいたこともあった。 何回かの授業で試行錯誤を重ね、 各テーブルとモニターの位置が決まった。 ベッドコーナーは、 ベッド周りでの学生たちの動きや、 準備室や給排水の場所との行き来を考えてベッド等を配置した。

2) 学習内容に対応した学期毎バージョンの設定
基礎看護実習室を使う主な授業に 「看護方法I」 と 「看護方法II」 がある。 1年次後期に開講される 「看護方法I」 では日常生活の援助技術を学習し、 2年次前期の 「看護方法II」 では診断・治療過程に伴う看護技術や生命の脅かしに対する看護技術、 そして看護過程展開の技術を学習する。 それぞれの学習内容によって実習室の使い方が異なることから、 基本形をもとに実習室内配置の学期毎バージョンを設定した。
「看護方法I」 に対応する後期バージョンは、 ベッドサイドで使う看護技術の学習が主となることから、 実習室を二分しテーブルコーナーとベッドコーナーを設けた。
テーブルコーナーで学生は、 グループ毎に好きなテーブルを選択し、 授業時間が終了するまでそこは指定席となる。 このコーナーは一斉授業の他、 立体像を描くためのグループ討議やビデオ視聴、 そして実習記録の記述等に使われる。 授業は80名を2クラスに分けて40名ずつ行っている。 ベッドコーナーにはベッドを15台置き、 そのうち8台をグループ割り当ての指定ベッドに、 残り7台を割り当てなしの自由ベッドとした (図1)。 また、 どの位置からでも学生と教師の双方が互いの状況を把握できるようオープンスペースにした。 全身清拭や便・尿器の与え方、 導尿などの技術では、 対象のプライバシーを守るためにスクリーンを設置している。 その場合、 ベッドを完全に囲うと教師が実習状況を把握しにくくなるため、 対象のプライバシーの保護と指導上の便宜の両面が満たされるようなスクリーンの設置を工夫している。
「看護方法II」 に対応する前期バージョンは、 医療処置に伴う看護技術の学習が主なため、 部分行動が繰り返し練習できる処置台とスペースが必要となる。 そこで、 テーブルを倍に配置し練習用スペースを確保した。 ベッドコーナーはグループの数だけベッドを配置し、 既修技術の復習や未修得者の練習に使えるようにした。 残りのベッドはテーブルコーナーの壁際に寄せスクリーンで覆っている (図2)。 採血や注射の技術チェックは、 練習用スペースと明確な区別が必要なため、 ベッドをテーブルコーナーの境に寄せ集めスペースをつくっている。 チェックコーナーの設定は、 技術チェックを受ける学生が集中して取り組めるよう仕切りをしている。 同時に、 先を進む学生の学習状況から他の学生が学べるよう、 チェックを受ける学生の視野に入らない場所で見学のできる配置を考えている。

3) 実習室内配置の特別バージョン
基礎看護実習室は前述の 「看護方法I」 「看護方法II」 の他に、 1年次の 「看護学原論」 で行う食の展示・試食や自己の健康観察の演習、 「基礎看護実習I・II」 の振り返り学習でのグループ学習や全体報告会にも使っている。 これらの授業では、 通常とは異なる配置が必要である。 まず、 「看護方法I・II」 が40名クラスであるのに対し、 これらの授業は80名で行われる。 また、 同じ時期に毎週 「看護方法I・II」 が開講されているので、 実習室の配置を大幅に変えることは多くの労力を要するため避けたいと考えている。 そこで、 これらの授業を実習室の基本型からの変更が最小で済む時期を選んで組んだり、 備品の移動が最小の動線になるよう配置を考えている。
現在の実習室が学習内容に応じて配置が可能なのは、 ほとんどの備品が可動式であることによる。 流動性をもたせた実習室内配置は、 スペースを有効活用でき、 動線が短縮され、 学習効率を高める。 自由度が大きい反面、 準備に要する労力が増えるという欠点もあるが、 実習室内配置の基本型と学期毎バーションの設定がこの欠点を補っている。

2. クラスや学年を越えた学習の場の共有

実習室の出入り口側に多目的用のスペースを取っている。 通常、 ここには自由ベッドと実習記録用のテーブルを各1台配置しており、 学習の進行に応じて様々な医療・看護機器や学生の学習の成果を展示する場所にもなっている。 授業の妨げにならないことを条件に、 他のクラスや学年の学生にこのスペースを自己学習用として開放しているが、 高い集中力が必要な 「採血」 や 「注射」 の技術チエック時には、 場の共有は行っていない。 技術チエックの前になると利用者が増えるが、 他の授業と重なっている学生も多いので、 ほとんどの場合、 現在のスペースで対応できている。
学習の場を共有することによって掲示物を媒介とした学びの共有が生じている。 グループ学習や臨地実習の学習成果をクラスで発表した後、 可能な期間、 実習室に掲示し他のクラスや学年の学生が見ることのできるようにしている。

3. 「いつでも使える実習室」

いつでも使える実習室の標語は、 2つの意味を含んでいる。 ひとつは、 実習室が一定の時間帯、 学生に開放されていること。 もうひとつは、 実習室が常に使える状態に整備されていることである。 これらは、 使用する学生と教師の共通理解の上に成り立っている。

1) 実習室の開放
看護実習室には様々な備品を置いていることから、 使用していない時は施錠をすることが管理上は望ましい。 しかし、 学生が空き時間を利用して積極的に学習できる環境を整えるためには、 自由に使えることが必要だと考え開放時間を設定することにした。 時間は午前8時から午後6時までとし、 それ以降の使用は事前の申し出により教員が対応する体制をとった。 また、 実習室の開放によって物品管理に支障を生じないよう、 あらかじめ手はずを整えた。 具体的には物品の現存数を把握しそれらの定位置を決めたことと、 利用者全員がわかるよう実習室および準備室の物品の配置図を作成すること、 扱いに注意を要するビデオカメラや注射器、 針、 薬品などの物品は鍵のかかる場所に保管し、 必要の都度、 教師が対応するようにしたことなどである。
以上の内容を 「基礎看護実習室使用の手引き」 にまとめ、 「看護方法I」 の開講時に学生に配布し、 最小限の約束事を実習室の入り口に掲示しルールの浸透をはかっている。

2) 学生がひとりでもできる準備から片づけまで
看護ケアの必要物品をひとりで準備し、 次に使える状態にして片づけることは、 実際の看護の現場では欠かすことのできない行為である。 必要な物品は、 自分が行なう看護技術全体の流れをイメージすることによって予測できる。 また、 物品を次に使える状態にして片づけるには、 物品の性質に適した片付け方と、 その場の物品収納のルールを理解することが必要である。 このような観点から、 技術の修得過程において物品の準備と片付けは非常に重要だと考えている。 そして、 さまざまな看護技術を自己学習する上でも、 個々の学生が実習室を使いこなせることが必要である。
物品の収納方法についは、 看護方法実習書 5) の学習項目ごとに必要物品を収めた。 物品がどの学習項目に用いるものか分かれば、 実習室と準備室の見取り図と物品配置図を手がかりに、 必要な物品を探し出すことができる。 使用済み物品の片づけについては、 物品の材質や使用上の特徴を考慮した片付け方を表に示して配布し、 実習室にも掲示している。
物品の片づけに関しては、 使用後すぐに収納できる物と洗浄して乾燥を待たないといけない物がある。 授業時間外の自己学習の場合、 乾燥する時間を見計らって、 収納するために改めて実習室に来るのは効率的でない。 そこで、 乾燥のための一時収納用ラックをキャスター付きにして準備室に配置し、 乾燥のたび棚へ収納する労力を省略した。 実習室の開放によって、 さまざまな物品が常に使われることになるので、 このラックは物品の流れをスムーズにする大きな役割を果たしている。

4. 教材としての実習物品

実習室では、 実習物品のひとつひとつが学生の看護観と看護技術を育てる教材となりうる。 学生は、技術の修得過程を通して看護技術が対象の安全・安楽と自立につながっていることや、 自分の行動のひとつひとつに看護観が表現されていることを理解する。 そこで、 教育用物品の整備は、 看護基本技術を修得する上で教材としての条件を満たしているだろうか、 という観点から行なった。
例えば、実習室づくりの初期の段階で既存の枕カバーを取り替えたことがあった。 その枕カバーは長い辺のどちらにも縫い目があった。 現実には多様な枕カバーがあるので、 それが特に不適切だとは言えない。 しかし、 教材として考えた時、 その枕カバーでは縫い目を確認して'不快な刺激を避ける'よう対象の頸部の方に輪を向け枕を置く、 という判断過程が行動として確認できないと考えた。 この行動を通して、 リネン類を扱うときにその条件の中で対象の安楽をはかるかたちをつくり出すという、 観念と行為とのつながりを学べることから、 縫い目の状態が教材の条件として重要だと考えた。
すべるマットレスへの対処は、 技術のレベルを把握しにくくする状態の改善に取り組んだ例である。 マットレスとマットレスパッドがどちらも新しいことから、 臥床患者を床上移動する時にマットレスパッドごと動いてしまっていた。 うまくできないのは、 移動技術が身についてないためか、 それとも物品の条件によるものなのか判断がしにくい状況であった。 これでは、 学生が自分の技術の修得状況を振り返りながら、 自己学習を進めていくことが難しいと考えた。 そこで、 業者に相談しながら滑り止めの方法を工夫し改善したこともあった。 自己学習においては、 学生自身の気づきに委ねる部分が大きいことからも、 実習室の物品をよい状態にすることは重要だといえる。

 
 

III.考察

看護基礎教育の主たる目標のひとつは、 看護の必要性の判断と必要な看護を実践する能力を身につけることである。 多様な人間の個別なありように対応した看護ができるようになるためには、 問題意識をもち主体的に学習する姿勢を育てる必要がある。
我々が取り組んできた‘実習室づくり’が主体的な学習の場と成りえていたか、 という観点から以下、 学習状況をもとに考察する。
「臥床患者の寝衣交換」 にグループで取り組んでいた時のベッドコーナでの出来事である。 看護者役の学生がベッドで横になっている患者役の右側に立って、 寝衣を健側である右側から脱がせ、 そのまま右側から着せようとしている場面が目に止まった。 患者設定は左半身麻痺である。 これでは、 患側の腕に袖を通すのは困難であり危険だと思いながら、 学生の行動を見守っていた。 案の定、 最後に患側の腕に袖を通そうとしているが、 手がなかなか入らずに困った様子で、 行動が止まった状況になった。 そこで、 看護者役の学生にそのような方法で交換しようとした理由を尋ねたところ、 早く袖を通してあげないと恥ずかしいだろうと思ったとのことだった。 左側の腕は麻痺があるので、 健康な腕の状態とは違うことを指摘し、 そのような患側の状況にどう看護したら良いと考えたのかを問うと、 全員黙ってしまった。 そこで、 患側を後にする方法では、 寝衣交換できず危険を伴うことを指摘し、 看護する時には対象の羞恥心への配慮と安全を守ることの両方が必要であることを強調した。 その後、 学生たちはテーブルコーナーに戻り実習書や教材ビデオをもとに 「寝衣交換」 の立体像を確認後、 再度ベッドコーナーで練習を行った。 学生たちは、 立体像を確認したことで 「寝衣交換」 における看護行為の意味と原理とに気づけたと話した。 さらに、 立体像がきちんと描けないままに行為を行うと看護にならない事も分かったと話していた。 学生が寝衣交換の行為でゆきづまったのは、 恥ずかしくないように、 すなわち安楽にとの観点のみで行動し、 安全を守るとの観点を意識していなかったことによる。 教師の指導は、 学生のそのような考え方の特徴に気づかせ、 さらに安全を必要としている患者の状態に注目させるものであった。 その後、 学生は自分たちで立体像の確認に戻り学習を深めている。 これは、 学生が教師の助言を得ながら自分たちの技術の修得段階を客観視し、 学習の進め方を考え主体的に取り組んだ場面だと言える。 学習の段階に対応しつつテーブルコーナーとベッドコーナーを自分たちで使い分けている状況は、 学び方を学んでいくことで自己学習の質が上がるということを示している。
技術の立体像を描きながら身につける学習では、 行為を手順として覚えるのではなく、 何のために (目的) 何故 (根拠)、 どのように行なうのか (行動のポイント) を考えることが繰り返される。 このように学んだ学生たちは、 教師に気になる行為を指摘された時、 「手順を間違えた」と答えるのではなく、 自分が行なった行為の根拠を話すことができる。 これは、 学び方を学んでいる学生が、 自己学習の中で自問自答を繰り返し考える力を身につけた結果であり、 行為を手順として覚えがちな従来の学習方法と大きく異なる点だと考える。
授業時間外の自己学習で取り組んだ学習結果を実習記録に見ることができるが、 看護者役や患者役の体験を能動的に行なわなければ経験できない学びを読みとることができる。
学生の主体的な自己学習の成果が最も発揮されるのは、 「看護方法I」 のグループ単位で行う 「学習成果発表」 や 「導尿」 の個別チエックである。 「看護方法I」 が開講されて間もない頃の学生は、 看護に対する意識も幼く目標とする技術の到達レベルのイメージも確実でないことが多い。 半年が過ぎて 「導尿」 の個別チエックあたりから、 学生自身が自分の技術レベルを判断しながらチエックを受けるようになり、 目標とするレベルも上がってきて教員の合格の評価に満足しない学生も出てくる。 これは、 学生自身の中に評価規準が形成されつつあることを示している。 学生のこのような能力は、 様々な自己学習の機会を通して判断や選択を重ねてきた結果だと考える。
「看護方法II」 では、 「採血」 「注射」 の仕上がりチエックや本番チエックを行っている。 仕上がりチエックは学生の申し出によりグループ単位で行なわれ、 個別チエックは学生一人々が合格するまで行われる。 個別チエックに至るまで学生は自分で立てた計画にそって学習を進めてゆくため、 学生の取り組みの結果が技術のレベルとなって現れる。 そのため学生の学習態度は真剣そのもので、 実習室を授業時間外にも積極的に利用し技術修得に取り組んでいる。 技術チエックの自己評価能力を高めることをめざして、 チエッカーと学生との評価のつき合わせを行なっている。 個々の学生の自己学習能力の高まりは、 上手にやれた学生に教わったり、 うまくやれない学生の技術を見てポイントを伝えるなどグループメンバー間の相互学習の促進につながっている。
「採血」は、 他者に痛みを与えることから看護者自身もストレスを感じやすく、 このようなストレスを乗り越えつつ、 対象の立場に立って行動することが求められる技術である。 「採血」技術は、 学生同士で患者と看護者の役割を交替しながら実際にを行わせている。 実際の 「採血」 に至る前の技術の練習は、 採血部位の組織に近づけた自作の 「採血」 モデルで行わせている。 「採血」 モデルは看護者役が患者役の腕で刺入部位の選択をし、 消毒をした後、 選択した血管の走行に沿うように腕に固定して用いる。
過去に、 市販の血管モデルを用いて 「採血」 や 「注射」 の技術教育を行ったことがある。 そのモデルは、 腕全体がゴムでできており、 皮膚や血管のゴム自体が硬く実際の皮膚の感覚からかけ離れていた。 学習のプロセスで血管への刺入に失敗した学生が、 駆血帯をしたまま何度も刺入を繰り返すという現実にはあり得ない行為が見られた。 このような学び方に問題を感じていたが解決策を見いだせなかった。 自作のモデルを用いた練習では、 このような行為は見られない。 この体験を通して実習物品のひとつひとつが、 学生の看護観と看護技術を育てる教材であると我々は実感している。
次に、 使用物品の片づけについては、 これから看護をめざす者として身につけるべき行為として位置づけている。 講義の準備のために教員は頻回に実習室への出入りをしており、 実習室の状況は把握できる。 これまでに学生が、 自己学習で使用した物品を置き放っぱなしにしている状況は確認していない。 学生は、 物品の性質に合わせた片づけ方ができている。 特に使用物品が多い清潔の援助でも、 ほとんどの学生は洗いジワを伸ばして干している。 それらを収納庫に納めているのは教員であるため、 学生の片づけ方の状況からそのことが把握できる。 このことから、 さまざまな看護技術の自己学習においても学生は、 実習室を使いこなせていると判断できる。
物品収納の方法や片づけ方を決め、 学生がひとりでも準備から片づけまでできるように実習室と準備室の見取り図と物品配置図を作成したことは、 学生が自己学習しやすい状況を整えていると考えられる。
以上より 「いつでも使える実習室」 は、 学習者が自分の学習したい項目について、 学習したい時に自己学習を行うことを可能にしていると言える。

 
 

V.まとめ

我々は、‘繰り返し身につける’という技術学習の特徴から、 学生が主体的に学習できる環境づくりが重要であると考え、 '学生の主体的な学習を支える場としての実習室づくり'を開学と同時に行なってきた。 看護技術の修得には時間を要することから、 学生の主体的な取り組みと学習の効率化をはかる必要があった。 実習室の基本型を決め、 学習内容に対応した学期毎バージョンを設定したことは、 学生の学習状況が把握しやすい実習室内の配置であり、 教員の時間と労力の効率化にもつながっていると考える。 また、 技術に取り組む学生の集中を妨げず、 同時に先を進む学生の学習状況から他の学生が学べるような配置を考えたコーナーづくりは、 学生が相互に学びあう機会をつくり学習効率を高めると共に教師側の学生への指導を容易にしている。 さらに、 クラスや学年を越えて学習の場を一部提供したことは、 学生の待ち時間を有効に活用し自己学習の機会を増やしている。 グループや学年を越えた学生同士での学びは、 お互いの様子が分かることから学習意欲の高まりにもつながっていると考えられる。
以上のことから、 我々の行なってきた‘実習室づくり’は主体的な学習を支える場として機能していると考える。 問題意識をもち主体的に学習していける学生を育てるという観点からの実習室づくりは、 基礎看護実習室に特有のものではなく、 看護実習室に共通した課題であると考える。

 
 

V.課題

看護実習室は、 実際の対象に適用できる技術の修得を目標に据え、 基本技術を繰り返し身につける学習の場である。 そのため、 学生が臨床現場において個々の対象に合わせた基本技術を適用できたかどうかの評価によって、 ‘実習室づくり’の最終評価ができると考えている。 従って、 臨地実習での学生の状況から評価していくことが今後の課題である。


 
文献 1) 稲垣美智子:基礎看護技術教育のシステム化―コンピュータ:CAI導入について, Quality Nursing, 1(9),
39-43, 1995
2) 山本利江・嘉手苅英子・和住淑子・山岸仁美・新田なつ子・寺島久美:視聴覚教材とその活用の方向性,綜合看護, 33(3), 33-44, 1998
3) 栗原保子:<自己学習-グループ学習-個別指導-自己評価>システムを活用した授業の実際, 綜合看護,33(4), 13-20, 1998
4) 嘉手苅英子・山本利江・和住淑子・山岸仁美・新田なつ子・寺島久美:<自己学習-グループ学習-個別指導-自己評価>システムによるモジュール学習の展開― 従来の看護技術教育の限界を乗り越えるための取り組み―, 綜合看護, 33(2), 21-32, 1998
5) 薄井坦子監修:Module方式による看護方法実習書 <改訂版>, 現代社, 1990. 
 
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