II.基礎看護学教室における'実習室づくり'
1. 流動性をもたせた実習室内配置
1) 実習室の基本形の設定
本教室における看護技術教育は、 グループ学習を中心とした<自己学習-グループ学習-個別指導-自己評価>システム 4) によって展開している。 学生は看護技術の立体像を明確に描き、
描いたイメージに導かれながら繰り返し練習することによって体に定着させることを学習課題として求められる。 技術の立体像とは、 技術の行動のポイントとその根拠と目的とがつながりあって描けた像を意味している。
このようなイメージづくりは、 個別な対象にあわせて基本技術を適用できるようになるための不可欠な取り組みと考え実習室の基本型として、 行動に先立って当該技術の立体像を描くためのテーブルコーナーと、
技術練習を行うためのベッドコーナーを設けた。
テーブルコーナーには、 教卓や一斉授業用視聴覚機器ラックの他、 学習用テーブルと、 ビデオ教材を備えたビデオ視聴用モニターラックをグループ毎に1台設置した。
これらは、 すべて可動式である。 立体像を描くための学習は一斉授業とグループ学習を組み合わせながら行う。 授業時間中にモニター等の位置を移動することは、
時間のロスだけでなく授業の流れを中断し学生の集中を妨げる。 そこで、 テーブルやモニターの配置は、 これら2つの異なる授業形態に対応できる形を考える必要があった。
授業中の学生の不自然な姿勢や授業後に寄せられた意見から、 モニターが見えにくかったりブラインドの隙間から差し込んだ光で画面が見えにくい席に気づいたこともあった。
何回かの授業で試行錯誤を重ね、 各テーブルとモニターの位置が決まった。 ベッドコーナーは、 ベッド周りでの学生たちの動きや、 準備室や給排水の場所との行き来を考えてベッド等を配置した。
2) 学習内容に対応した学期毎バージョンの設定
基礎看護実習室を使う主な授業に 「看護方法I」 と 「看護方法II」 がある。 1年次後期に開講される 「看護方法I」 では日常生活の援助技術を学習し、
2年次前期の 「看護方法II」 では診断・治療過程に伴う看護技術や生命の脅かしに対する看護技術、 そして看護過程展開の技術を学習する。 それぞれの学習内容によって実習室の使い方が異なることから、
基本形をもとに実習室内配置の学期毎バージョンを設定した。
「看護方法I」 に対応する後期バージョンは、 ベッドサイドで使う看護技術の学習が主となることから、 実習室を二分しテーブルコーナーとベッドコーナーを設けた。
テーブルコーナーで学生は、 グループ毎に好きなテーブルを選択し、 授業時間が終了するまでそこは指定席となる。 このコーナーは一斉授業の他、 立体像を描くためのグループ討議やビデオ視聴、
そして実習記録の記述等に使われる。 授業は80名を2クラスに分けて40名ずつ行っている。 ベッドコーナーにはベッドを15台置き、 そのうち8台をグループ割り当ての指定ベッドに、
残り7台を割り当てなしの自由ベッドとした (図1)。 また、 どの位置からでも学生と教師の双方が互いの状況を把握できるようオープンスペースにした。 全身清拭や便・尿器の与え方、
導尿などの技術では、 対象のプライバシーを守るためにスクリーンを設置している。 その場合、 ベッドを完全に囲うと教師が実習状況を把握しにくくなるため、
対象のプライバシーの保護と指導上の便宜の両面が満たされるようなスクリーンの設置を工夫している。
「看護方法II」 に対応する前期バージョンは、 医療処置に伴う看護技術の学習が主なため、 部分行動が繰り返し練習できる処置台とスペースが必要となる。
そこで、 テーブルを倍に配置し練習用スペースを確保した。 ベッドコーナーはグループの数だけベッドを配置し、 既修技術の復習や未修得者の練習に使えるようにした。
残りのベッドはテーブルコーナーの壁際に寄せスクリーンで覆っている (図2)。 採血や注射の技術チェックは、 練習用スペースと明確な区別が必要なため、 ベッドをテーブルコーナーの境に寄せ集めスペースをつくっている。
チェックコーナーの設定は、 技術チェックを受ける学生が集中して取り組めるよう仕切りをしている。 同時に、 先を進む学生の学習状況から他の学生が学べるよう、
チェックを受ける学生の視野に入らない場所で見学のできる配置を考えている。
3) 実習室内配置の特別バージョン
基礎看護実習室は前述の 「看護方法I」 「看護方法II」 の他に、 1年次の 「看護学原論」 で行う食の展示・試食や自己の健康観察の演習、 「基礎看護実習I・II」
の振り返り学習でのグループ学習や全体報告会にも使っている。 これらの授業では、 通常とは異なる配置が必要である。 まず、 「看護方法I・II」 が40名クラスであるのに対し、
これらの授業は80名で行われる。 また、 同じ時期に毎週 「看護方法I・II」 が開講されているので、 実習室の配置を大幅に変えることは多くの労力を要するため避けたいと考えている。
そこで、 これらの授業を実習室の基本型からの変更が最小で済む時期を選んで組んだり、 備品の移動が最小の動線になるよう配置を考えている。
現在の実習室が学習内容に応じて配置が可能なのは、 ほとんどの備品が可動式であることによる。 流動性をもたせた実習室内配置は、 スペースを有効活用でき、
動線が短縮され、 学習効率を高める。 自由度が大きい反面、 準備に要する労力が増えるという欠点もあるが、 実習室内配置の基本型と学期毎バーションの設定がこの欠点を補っている。
2. クラスや学年を越えた学習の場の共有
実習室の出入り口側に多目的用のスペースを取っている。 通常、 ここには自由ベッドと実習記録用のテーブルを各1台配置しており、 学習の進行に応じて様々な医療・看護機器や学生の学習の成果を展示する場所にもなっている。
授業の妨げにならないことを条件に、 他のクラスや学年の学生にこのスペースを自己学習用として開放しているが、 高い集中力が必要な 「採血」 や 「注射」
の技術チエック時には、 場の共有は行っていない。 技術チエックの前になると利用者が増えるが、 他の授業と重なっている学生も多いので、 ほとんどの場合、
現在のスペースで対応できている。
学習の場を共有することによって掲示物を媒介とした学びの共有が生じている。 グループ学習や臨地実習の学習成果をクラスで発表した後、 可能な期間、 実習室に掲示し他のクラスや学年の学生が見ることのできるようにしている。
3. 「いつでも使える実習室」
いつでも使える実習室の標語は、 2つの意味を含んでいる。 ひとつは、 実習室が一定の時間帯、 学生に開放されていること。 もうひとつは、 実習室が常に使える状態に整備されていることである。
これらは、 使用する学生と教師の共通理解の上に成り立っている。
1) 実習室の開放
看護実習室には様々な備品を置いていることから、 使用していない時は施錠をすることが管理上は望ましい。 しかし、 学生が空き時間を利用して積極的に学習できる環境を整えるためには、
自由に使えることが必要だと考え開放時間を設定することにした。 時間は午前8時から午後6時までとし、 それ以降の使用は事前の申し出により教員が対応する体制をとった。
また、 実習室の開放によって物品管理に支障を生じないよう、 あらかじめ手はずを整えた。 具体的には物品の現存数を把握しそれらの定位置を決めたことと、 利用者全員がわかるよう実習室および準備室の物品の配置図を作成すること、
扱いに注意を要するビデオカメラや注射器、 針、 薬品などの物品は鍵のかかる場所に保管し、 必要の都度、 教師が対応するようにしたことなどである。
以上の内容を 「基礎看護実習室使用の手引き」 にまとめ、 「看護方法I」 の開講時に学生に配布し、 最小限の約束事を実習室の入り口に掲示しルールの浸透をはかっている。
2) 学生がひとりでもできる準備から片づけまで
看護ケアの必要物品をひとりで準備し、 次に使える状態にして片づけることは、 実際の看護の現場では欠かすことのできない行為である。 必要な物品は、 自分が行なう看護技術全体の流れをイメージすることによって予測できる。
また、 物品を次に使える状態にして片づけるには、 物品の性質に適した片付け方と、 その場の物品収納のルールを理解することが必要である。 このような観点から、
技術の修得過程において物品の準備と片付けは非常に重要だと考えている。 そして、 さまざまな看護技術を自己学習する上でも、 個々の学生が実習室を使いこなせることが必要である。
物品の収納方法についは、 看護方法実習書 5) の学習項目ごとに必要物品を収めた。 物品がどの学習項目に用いるものか分かれば、 実習室と準備室の見取り図と物品配置図を手がかりに、
必要な物品を探し出すことができる。 使用済み物品の片づけについては、 物品の材質や使用上の特徴を考慮した片付け方を表に示して配布し、 実習室にも掲示している。
物品の片づけに関しては、 使用後すぐに収納できる物と洗浄して乾燥を待たないといけない物がある。 授業時間外の自己学習の場合、 乾燥する時間を見計らって、
収納するために改めて実習室に来るのは効率的でない。 そこで、 乾燥のための一時収納用ラックをキャスター付きにして準備室に配置し、 乾燥のたび棚へ収納する労力を省略した。
実習室の開放によって、 さまざまな物品が常に使われることになるので、 このラックは物品の流れをスムーズにする大きな役割を果たしている。
4. 教材としての実習物品
実習室では、 実習物品のひとつひとつが学生の看護観と看護技術を育てる教材となりうる。 学生は、技術の修得過程を通して看護技術が対象の安全・安楽と自立につながっていることや、
自分の行動のひとつひとつに看護観が表現されていることを理解する。 そこで、 教育用物品の整備は、 看護基本技術を修得する上で教材としての条件を満たしているだろうか、
という観点から行なった。
例えば、実習室づくりの初期の段階で既存の枕カバーを取り替えたことがあった。 その枕カバーは長い辺のどちらにも縫い目があった。 現実には多様な枕カバーがあるので、
それが特に不適切だとは言えない。 しかし、 教材として考えた時、 その枕カバーでは縫い目を確認して'不快な刺激を避ける'よう対象の頸部の方に輪を向け枕を置く、
という判断過程が行動として確認できないと考えた。 この行動を通して、 リネン類を扱うときにその条件の中で対象の安楽をはかるかたちをつくり出すという、 観念と行為とのつながりを学べることから、
縫い目の状態が教材の条件として重要だと考えた。
すべるマットレスへの対処は、 技術のレベルを把握しにくくする状態の改善に取り組んだ例である。 マットレスとマットレスパッドがどちらも新しいことから、
臥床患者を床上移動する時にマットレスパッドごと動いてしまっていた。 うまくできないのは、 移動技術が身についてないためか、 それとも物品の条件によるものなのか判断がしにくい状況であった。
これでは、 学生が自分の技術の修得状況を振り返りながら、 自己学習を進めていくことが難しいと考えた。 そこで、 業者に相談しながら滑り止めの方法を工夫し改善したこともあった。
自己学習においては、 学生自身の気づきに委ねる部分が大きいことからも、 実習室の物品をよい状態にすることは重要だといえる。 |