II 授業展開方法と実際
1 授業内容における事業所の健康管理の位置づけ
成人保健看護の対象は年齢3区分 1) からみると生産年齢人口 (15歳~64歳) が対象になると考える。 生産年齢人口の中で就業人口 (前述) は多く、
成人保健看護の視点からその所属する職場の健康管理は重要な役割があると考え授業の中に位置づける 2) とともに、 県内の事業所でどんな健康管理がなされているか、
見学を通して理解することとした。
2 事業所見学方法
1) 対象:本学2年次学生85名。 成人保健看護概論の講 義の中で、 事業所の健康管理について学んだあと、 事 業所見学を行った。
2) 時期:平成13年5月30日 午後1時~5時 (4時間)
3) 見学の内容:授業で 「事業所における健康管理の目的と健康管理チーム、 健康診断の種類と事後措置、 健康づくり、 看護職者の業務内容」 を学んだあと、
「事業所の概要および健康問題、 健康管理システム、 看護職者の役割と実際」 について見学した。
4) 見学方法:事業所の特徴により健康問題が理解できると思われる県内の11の事業所を選定した。 見学した事業所を日本標準産業分類でみると、 E建設業1社、
G電気・ガス熱供給2社、 H運輸・通信業2社、 I 卸売・小売業1社、 J金融・保険業2社、 Lサービス業 (情報サービス) 2社、 M公務 (地方公務)
1社である。
学生配置は1事業所7~8人とし、 保健婦または看護婦の指導で見学を行った。
5) 分析:見学後の学生レポートより見学内容の課題に沿って保健婦又は看護婦が常勤している10社について分析した。
3 事業所見学学習
A 事業所の概要および健康問題 (表1)
1) 事業所の概要
10社の従業員数は、1000人以上の事業所4社、1000人以下の事業所6社であった。 保健婦または看護婦は1000人以上4社のうち3社に2人、 1社は1人で、
1000人以下の6社は1人であった。 その活動拠点は、 名称は異なるが、 健康相談室、 保健室、 医務室で従業員の健康管理を行っていた。 産業医は1社を除く10社は非常勤であった。
メンタルヘルス医は10社のうち6社に非常勤としていた。
事業所の特徴と職場環境からくる疾患、 健康障害 の防止対策
G 電気・ガス供給業
有機溶剤による悪臭やガスタンクの補充や洗浄などを行う際に出る粉塵が多く、 また騒音がすごい。 夏場は50℃近い中で作業を行うため環境は良くない。 対策として大きな扇風機を使用しており、
ゴーグル・マスク・耳栓は保護具として全ての作業員に着用を促していた。 職業からくる疾患として、 難聴、 塵肺が予測され、 その防止対策として保護具の使用を指導していた。
I 卸・小売業
気温-25℃の冷凍庫の中での作業で冷凍マグロなど商品は何万種類と多く、 県内最大の施設であった。 対策として、 冷凍庫内での作業を最大1時間以内とし、
ヘルメット使用と保護衣の着用を義務づけていた。 また、 PHSを携帯させ、 倉庫内での閉じ込め防止を図っていた。 感冒など長引いた場合は完治するまで休ませている。
職業からくる疾患として感冒、 腰痛があり、 腰痛対策としてベルトの着用を義務づけていた。
G 電気・ガス供給業
電力発電所や電気工事現場などでの作業が多く、 対策としてヘルメット着用を義務づけるとともに、 事故やケガに備えて各営業所ごとに担架及び救急セットを常備していた。
職業からくる疾患としてはケガが多く、 その予防対策として安全教育及び救急処置について指導していた。 また、 THPによる心と体の健康づくりにメンタルヘルス相談に重点をおいていた。
E 建設業
各種建材などを取り扱う建築現場では、 ケガや事故がないよう常に安全に努めている。 ヘルメットの着用は義務である。 建物のスラブ打ち修了後にやぎ料理を食べる習慣があり、
同時に飲酒も多く肝機能障害や高脂血症が多い。 各職場の上司からも節酒の指導をしており、 効果をあげていた。 また、 有機溶剤による低酸素血症や屋外建築現場での作業による日射病、
過労、 食中毒があり、 その防止対策として作業時間、 作業場の換気、 作業方法の指導をしていた。 さらに、 年1回健康展を開催し、 健康づくりと疾病予防に重点をおいていた。
J 金融・保険業
デスクワークが多く、 運動不足、 ストレス、 腰痛が多い。 職場巡視による健康教育、 THPによる心と体の健康づくりに重点をおいていた。
M 公務
ストレス及びVDT作業による眼精疲労, 肩こり、 腰痛、 ストレス、 握力の低下などの健康障害が多く、 健康相談者も多い。 メンタルヘルス相談に重点をおいていた。
H 通信業
デスクワークによる運動不足、 VDTによる眼精疲労、 肩こり、 腰痛などの健康障害やイライラする、 眠れないなどが多い。 メンタルヘルス相談やTHPに重点をおいていた。
H 運輸業
整備部門では航空機発着による騒音の近くで作業を行うため、 耳栓を使用しているが難聴が健康問題となっている。 また、 特殊有機溶剤を使用しているため洗浄用のアイボンが常に救急箱に設置されている。
作業用保護衣、 ゴーグルマスクを使用している。
客室乗務員や空港部門では荷物の上げ下ろしが原因で腰痛、 椎間板ヘルニア、 また、 気圧変化による航空性中耳炎も多い。 職場巡視による指導とメンタルヘルス相談に重点をおいていた。
L サービス業 (情報サービス)
印刷部門はコンピューター化されていたが、 工場内では騒音とインクの臭いが気になった。
また、 記事もパソコンに入力され、 メールにより送信されるが時間との勝負でストレスが多い。 コンピューター等使用による視力低下などがある。 印刷部門では耳栓やマスクの使用を指導し、
記者室や事業所では換気、 照度のチェックが行われていた。
2) 全事業所に共通する健康診断による健康問題とし て高脂血症、 肝機能障害、 高尿酸血症、 虚血性心疾 患、 糖尿病などの生活習慣病があるが、 ストレスか らくるメンタルヘルスの問題も多かった。
B 健康管理システム (図1) (表2)
1) 事業所における健康管理システムは、 労働安全衛生法に基づきどの事業所においても多少異なるが図1のように安全衛生管理体制が組織化され、 表2の仕事が行われていた。
衛生管理者である保健婦・看護婦は、 安全管理者と共同で作業の環境管理、 作業管理を行うが、 専門職独自機能として、 産業医と連携し健康管理を行っていた。
事業所における看護職者は、 健康管理システムの中において、 中核となりまた、 安全衛生管理委員会に対しては、 健康問題を提案し、 解決のために協力を求めていく重要な役割をもっていた。
安全衛生委員会はどの職場でも月1回開催され、 作業環境管理については定期的に職場環境調査や空調環境測定が行われていた。 作業管理については職業性疾患予防の視点から作業時間、
作業方法などが指導されていた。 健康管理については、 定期健康診断、 特殊健康診断をはじめ、 産業医、 メンタルヘルス医、 栄養士とチームによる健康相談、
健康教育などが行われていた。
C 看護職 (保健婦、 看護婦) の役割と実際 (表3)
1) 各事業所を通して共通する活動内容は、 (表3) の とおりである。
総括管理は、 保健婦、 看護婦が実際活動を行うために重要な役割で、 衛生管理業務の企画立案、 予算管理、 コーディネイト機能、 安全衛生管理委員会への出席、
活動報告書・統計資料の作成を行っていた。
実際活動は、 健康診断の計画と実施、 事後措置、 健康の保持増進のためのTHP実施、 健康相談、 健康教育など (表3) に示すような多岐にわたる活動を行っていた。 また自己啓発のための研修会への参加や、 産業看護の専門性を発展させていくための産業看護研究会を月1回開催していた。
協同活動は、 安全管理者、 衛生管理者と協同で行っていた。
健康管理チームとして、 産業医、 メンタルヘルス医、 安全衛生推進者、 衛生推進者、 保健婦および看護婦で組織化され実際活動を支援していた。
2) 各事業所の特徴からみた活動は (表1) (表2) に 述べたとおりであるが、 具体的活動内容は、
健康診断では、 職場規定で健康診断の結果をA:自宅療養又は入院による休業、 B:勤務軽減 (4時間~8時間など) が必要、 C:勤務時間のみ勤務する事
(残業や出張なし)、 D:健康管理に気をつけて生活 (要注意)、 E:現状維持の5段階に分類して健康管理を行っていた。
健康相談は多肢にわたっており、 来所相談、 職場巡視、 メール相談、 文書による相談など看護職のみで行う場合、 産業医と共に行う場合、 栄養士と共に行う場合など対象に合わせて実施している。
健康教育は、 健康展、 講演会、 禁煙教育、 飲酒教育、 エイズ教育、 安全教育、 救急教育、 生活習慣病予防教育、 疾病管理のための教育 (例、
高血圧、 糖尿病、 高脂血症など)、 季節に応じた教育 (風邪予防など)、 疾病予防教育 (日射病、 VDT、 メンタル、 過労、 腰痛、 難聴、 食中毒など)、
メールによる健康情報提供など幅広く行われていた。
作業管理として職場巡視の中で、 作業方法の改善、 疲労・ストレス対策、 保護具の選定・着用指導、 休憩・休息の取り方などが指導されていた。
訪問は長期療養者を病院に訪問したり、 在宅訪問したりして、 職場復帰についての健康状態を把握していた。
THPは、 健康づくり事業の一環として保健指導、 運動指導、 栄養指導、 心理相談を推進しており、 そのための設備をもっているところもあった。
D 学生の主な所感(一部紹介)
1) 共通な学び
・教科書では学べない現場での状況や問題などを見学で学ぶ事が出来て、 とても勉強になった。 時代の変化に伴って起こる、 健康についての問題への対策などよく理解できた。
・現在の成人期の人々がストレスや悩みを多く抱えているなかで、 産業看護は重要な役割を果たしていた。
・4時間くらいの見学だったが、 とてもたくさんのことを学ぶ事が出来てよかった。
・産業保健婦に関する予備知識はある程度あったが、 実際に事業場で働く看護職者の仕事風景を見てとても有意義であった。 産業看護職者の仕事内容は、 総括管理から始まって労働衛生教育、
健康管理、 作業健康管理、 作業管理と想像以上に大変なものだった。
・健康相談室を社員の癒しの空間としようとする努力が至る所で見られ、 大変な仕事だと思った。 ストレス社会においていかに社員の健康を保つか、 ストレスと上手く付き合っていけるかは本人の努力とそれをサポートする保健婦のアドバイスで作られているんだなと思った。
・部長が従業員に節酒するよう呼びかけるだけで、 肝機能障害が指摘される人は一気に減少したというので、 呼びかけの強さも実感した。
・講義で産業保健の目的は 「全ての職業に従事する人々の身体的・精神的・社会的健康を最高に保持増進する事」 ということを習ったが、 見学で実感できた。
・事業所で働く人々は、 家庭では経済を支える中心であり、 父親、 母親であり、 健康でなければならないと思った。
2) 事業所の特徴からの学び
・工場内は暑さと騒音の圧迫感があり、 この圧迫感がストレスになるだろうという事はすぐに感じた。 デスクワークや工場で働く人のストレスを保健婦は感じており、
日々環境づくりに頑張っている姿も感じ取れた。
・施設中の要所に担架が設置され、 急病にも対応できるようにしていた。 危険が多い場所だからこそ、 社員一人一人が気を使い、 お互いをサポートしあわなければならないと思った。
その中心となるのが保健婦、 看護婦なんだと思った。
・その会社特有の疾患などの把握、 対策など、 自分で仕事を見つけ解決していく面白さを感じた。
・今まで考えていたよりもさらに多くの仕事を行っていることに驚いた。 職場の環境があまりよくないなと感じた。 職員の健康のことを考えるなら、 もっと職場環境を改善したほうがいいと思った。
・ゆっくりとくつろぐ場所がないことに驚いた。 スペースが狭いと、 人と人との間隔も狭く、 パーソナルスペースが守られない為、 ストレスがたまりやすくなるのではないか。
クーラーによって体調を崩す危険性も考えられる。 照明が適切であるとは思えなかった。 メンタル面での病気療養明けの職員に対する対応はもっと考えていかなくてはならないと思った。
・労働者のストレスケアはどうなっているのかととても関心があった。 事業所見学した時、 「職場における心の健康づくりと精神障害の労災認定」 というフォーラムに参加できて、
とても勉強になった。 労働者のメンタルケアが実施されていることを知ることができてよかった。
・輪転機の騒音は、 思っていたよりもうるさかった。 作業員は、 耳栓をしていたが騒音は大変だろうと思った。 30分の見学だったが騒音やインクの臭いで少し頭痛がした。
本社では常に新しい情報を求め、 時間との勝負で締め切り前はとても忙しくなり慌しくなると聞き、 大変な仕事だと思った。 職場でのストレスを持っている人が60%にのぼっており、
職場における心のケアが大切だと改めて思った。 |