III結果
1. 有効回答数および対象者の属性
住所確認の意味も含めて事前に本研究の趣旨を郵送し、 調査協力に同意を得られた父親46名、 母親46名に質問紙を発送した結果、 質問紙の返却数はそれぞれ父親31名、
母親31名であった。 このうち、 父親30名、 母親31名を有効回答として分析した。
父親の年齢は48~60歳、 平均年齢は52.8歳、 母親の年齢は45~58歳、 平均年齢50.5歳であった。 家族形態は、 拡大家族55.7%(父親53.3%、
母親58.1%)、 核家族42.7%(父親46.7%、 母親38.7%)、 不明1.6%であった。 また、 父親の職業は、 農業・自営業30%、 半熟練系労働23.3%、
事務系公務員20%、 会社員13.3%であり、 母親の職業は、 農業・自営業・パート48.4%、 常勤22.6%、 主婦16.1%であった。
2. 主観的健康状態
父親は“大変よい”5名(16.7%)、“よい”14名(46.7%)、 “あまりよくない”8名(26.7%)、“よくない”2名(6.7%)であった。 一方母親は“大変よい”4(12.9%)、“よい”17名(54.8%)、“あまりよくない”9名(29.0%)、“よくない”1名(3.2%)であった。
さらに、 健康状態が“あまりよくない・よくない”者が現在医療機関を受診しているか否かを質問した結果、 父親2名、 母親3名が受診中であった。
また、 健康状態の程度を“大変よい”と“よい”を 「良好群」、“あまりよくない”と“よくない”と回答した者を 「その他群」 として2群に分類し、 すでに実施した東京都群、
沖縄群の2地域と比較した結果は表1のごとくであった。 父親の場合は、
良好群で東京都群79.4%は岩手群63.4%よりも有意に高く(p<0.05)、 また、 沖縄群54.5%よりも有意に高かった(p<0.001)。
3. 父母の自己概念
自己概念13項目の個人総合得点の幅は、 父親25~43点、 母親21~46点、 総合得点の平均は、 父親36.8点、 母親33.3点であった。
自己概念領域別の平均値を父母の間で比較した結果は表2のごとくであった。
「仕事」 「運動能力」 「道徳性」 の3領域および総合得点に統計的に有意差があり、 いずれも父親の方が有意に高かった(p<0.05)。
さらに、 岩手県、 東京都、 沖縄県の3地域に住む父母の自己概念の各領域と総合得点を分散分析で検討した結果は表3、 表4のごとくである。 父親では 「仕事」 領域にのみ有意差が認められた。
さらに、 地域別に検討すると 「仕事」 領域のみ岩手群と沖縄群との間に有意差あり、 岩手郡が有意に得点が高かった(p<0.05)。 母親では自己概念の各領域と総合得点のいずれにも地域別による有意差は認められなかった(表4)。
4. 父母の自己概念と主観的健康状態との関係
自己概念領域すべてに記入した父親26名と母親27名を分析の対象とした。 父母の自己概念総得点を主観的健康状態の良好群とその他群との間で比較した結果 (図1)
統計的な有意差はなかった。 しかし、 母親の場合には、 主観的健康状態がよいほど自己概念総得点は高い傾向にあった。 さらに、 父母の自己概念総得点と主観的健康状態との関係を他の2地域の対象者と比較した結果は図2、 図3のようであった。 岩手群の父親以外は、 主観的健康状態がよいほど自己概念総得点は高い傾向にあった。
5. 父母の子育て評価の3項目 (ACR) とパターン分類
父母が自分の子育てについて、 (ア)過去の次元に関する 「子育てに関して自分の親が見本となりましたか?」、 (イ)現在の次元に関する 「お子さんはあなたの思い通りに育ちましたか?」、
(ウ)将来の次元と関連する 「自分が経験した子育ての中でお子さんに伝えたいことがありますか?」 の親による評価3項目についての回答を求めた。 母親21名(67.7%)、
父親13名(43.3%)は親が見本だったと肯定的に回答し、 母親の方が有意に高かった(p<0.05)。 これは、 父親と母親との間には子育ての“過去”の見方に関して違いがあることを示唆しており、
過去に関する子育て評価は父親よりも母親に高い傾向があるとの東京都群の結果 2) と類似していた。 また、 子どもが思い通りに育ったとの肯定的回答は母親27名(87.1%)、
父親28名(93.3%)であり、 子どもに伝えたいことがあるものは母親25名(80.6%)、 父親20名(66.7%)であった(表5参照)。
ACRの結果を3地域 (岩手県、東京都、沖縄県) の間で比較した結果は表5のごとくである。
母親が親を見本として育児する者に注目すると、 岩手群67.7%は東京都群58.6%と沖縄群43.5%の順であり(p<0.01)、父親が子どもは思い通りに育ったとみなす岩手群93.3%は東京都群73.6%、沖縄群72.7%に比較して有意に多かった(p<0.01)。
さらに、 (ア)(イ)(ウ)をパターン分類した結果は、 図4に示す通りである。
それぞれについて、 肯定的態度を+、 否定的態度を-で示し、 (ア)(イ)(ウ) の組合せにより分類した。 予測される経路はa~hの8通りであるが、 記入不備のものを除外した父親27名、
母親27名について分析した結果、 父親の場合5通りがあり、 経路a型11名で最も頻度が高かった。 すなわち親を見本とし、 自分の子どもが思い通りに育ったと評価し、
また、 子どもにも伝えたいと思っている者は40.7%あった。 第2位は、 親を見本としなかったが自分の子どもは思い通りに育ったと評価し、 子どもにも伝えたいとするe型29.6%であった。
一方母親の場合もa型15名(55.6%)が最も頻度が高く、 第2位e型18.5%であり父親と同じであった。 この結果を東京都群の結果 2) と比較すると、
東京都群父親では最も頻度の高かったのはa型28名(26.2%)、 第2位f型26名(24.3%)、 第3位b型15名(14.0%)であり、 東京都群母親ではa型57名(40.4%)、
第2位g型20名(14.2%)、 第3位f型19名(13.5%)であった。 父親、 母親ともに最も頻度が高かったのはa型で類似していたが、 第2位以下は父親、
母親ともに違うパターンであった。 この結果を沖縄群と比較すると、 母親は第1位がa型であったが、 父親の第1位はb型であった。
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IV考察
人間の生涯における中年期は一般的に三世代の真ん中にある。 すなわち、 成人期を迎えた子どもの親であることが多く、 同時に自分自身の親の子どもでもある。
そして、 生涯発達の視点からみれば、 この時期の発達課題は個人的自己をコントロールすることであり、 これには他の2つの世代の発達と自分の個人的発達を調整し合っていく必要がある。
成人期には、 子どもあるいは両親との関係に多くの犠牲を強いながら自分の生活をうまくコントロールしていくことはできず、 関係する人達の発達の軌跡をうまく組み入れていく必要が生じる
5) 。 またニューガーテン 6) は、 中年期は人生のなかで極めて内省的で、 自己認知を再点検する時期でもあり、 同時に中年期の自覚の契機は、 男女間に次のような差があると指摘している。
すなわち、 女性は、 家族周期の出来事との関わりのなかで中年期を自覚し、 結婚している女性の場合、 それは子どもの巣立ちに結びついており、 その結果、
自分のために使える時間とエネルギーが増加し、 今まで潜在化していた才能や能力を新しい領域で活用することができる。 一方男性は、 健康への関心の高まり、
体力の衰え、 同年代の友人の死といった生物学的徴候から始まり、 仕事の重圧の増加期としてとらえられると指摘している 7) 。
本研究では、 岩手県に在住する成人初期の子どもをもつ中年期の父母を対象に、 東京都群と沖縄群の2地域ですでに得られた子育て評価と健康状態に関連する事柄が、
岩手群においてどの程度あてはまり、 一般化できるか否かを検討することを目的とした。
1. 主観的健康状態と自己概念
すでに上田は自己概念と主観的健康状態が関連することを高年期女性 8) 、 成人期 9) 、 青年期 10) の者を対象とした調査において報告している。
今回の結果では、 岩手群の父親を除くと、 岩手群の母親、 東京都群および沖縄群の父母では主観的健康状態がよいほど自己概念総得点が高い傾向にあり、 これまでの報告と類似する結果であったことを意味している。
中年期の親は、 子どもが就職、 あるいは進学のため親のそばを離れることもあり、 さらには結婚という重大なライフ・イベントをかかえている時期でもある。 親は人生の先輩としてこの時ほど人間的な偉大さを強く要求されるときはない
11) 。 身体的疾患がないにもかかわらず、 社会生活上の困難に直面する可能性のあるリスク者を早期に見つけ支援していく予防的アプローチが必要であろう 12)
。 すなわち、 自己概念の状態を把握することにより、 健康上のリスク者を見つけ、 カウンセリングに結び付けられるサービス等を実施することができると考える。
2. 子育て評価
子育ては親自身の生き方と深く関わっているようであった。 親は自分自身が育つ過程で受けた養育をふり返り、 そのうちよかったと思うことを選択し、 これを自分の子育てにあたって自分の子どもに伝えようとする。
一方、 この親の子どもに対する期待は子どもの発達状態に合わせて調節すると同時に、 現実の社会がどのようなことを次世代の子どもたち (将来) に要求しているのかにも目を向けて調節されなければならない。
言い換えれば、 子育ての過程には親自身が自己の過去・現在を意識的にふり返り、 自己をみつめ、 親として自己を再統合することが含まれている 13) 。
中年期の親の子育て評価の結果は、 父親と母親との間には子育ての過去の見方に関して違いがあり、 これは東京都群の結果と一致していた。 また、 3世代に生きる様相をパターン分類した結果、
岩手県群、 東京都群、 沖縄群の母親はいずれもa型、 すなわち親を見本とし、 自分の子どもが思い通りに育ったと評価し、 また、 子どもにも伝えたいと思っている者の割合が高かったことから、
地域を越えて母親の子育て評価は世代間で継承する割合が高いことが明らかになった。
山崖ら 14) は、 母親の生き方が子どもの育成におよぼす影響について、 娘・母・祖母の3世代を調査し、 母親が母親 (祖母) に対して深いレベルで肯定していることが、
自分自身に対する肯定感を育て、 そのような母親に育てられた娘はやはり自分自身を肯定し 「生き生き」 と生きると述べている。 今回は親のみの分析であったため、
今後は親子間の関係も検討し、 子育て支援の視点からさらに検討を重ねたいと考えている。 |
文献
1) 森岡清美, 望月嵩:新しい家族社会学 (四訂版), 134, 培風館, 1998.
2) 上田礼子:リスク児 (者) のresilienceとサポート・システムに関する研究-20年間の縦断的アプローチ-, 平成8~10年度科学研究費補助金
(基盤研究C) 研究成果報告書, 1999.
3) Harter.S: Causes Correlates and Functional Role of Global Selfworth, A Life-
span Perspective. New Heaven, G.Yale University Press, 1988.
4) 上田礼子:国内3地域における青少年とその家族の自己概念に関する比較研究-発達生態学的接近, 平成5年度科学研究費補助金 (一般C) 研究成果報告書,
1994.
5) Rodeheaver,D. and Datan, N.: 成熟に向けて中年期の論理、 R.M.ラーナー、 N.A.ブッシュ=ロスナーガル編 上田礼子訳,
生涯発達学, 174-178, 岩崎学術出版社, 1990.
6) Neugarten,B.L.,: The Awareness of Middle Age, in Neugarten, B. L.(ed.) Middle
Age and Aging: A Reader in Social Psychology, The University of Chicago Press,
95-96,1968.
7) 井上俊, 上野千鶴子他編集:岩波講座現代社会学9 ライフコースの社会学, 112-113, 1996.
8) Ueda, R., and Nakamura, T.: The self-concept in elderly in relation to subjective
thalth, The Bulletin of the Faculty of Education, Ibaraki University, 43:114,1993.
9) 上田礼子, 高橋真理, 有森直子:成人期の自己概念と自覚的健康状態, 茨城大学教育学部教育研究所紀要, 1991.
10) Ueda, R.: Self-concept and related variables in relation to identifying
adolescents at risk, Jpn. J. Heath Hun. Ecol. 59(5), 215, 1993.
11) 上田礼子:生涯人間発達学, 222, 三輪書店, 1996.
12) Ueda, R., and Jun, O.: Simplified Japanese Self-Perception Scale for Young
Adulte(SJS-PSYA) to identify risk cases, J. of Advanced Nursing, 33(5), 644-651,
2001.
13) 上田礼子:発達のダイナミックと地域性, 203, ミネルヴァ書房, 1998.
14) 山崖俊子, 室田洋子, 北山百子他:母親の生き方が子どもの生育におよぼす影響についての基礎的研究, 保育学研究, 31, 96, 1993. |