紀要3号 文献レヴュー1
 

異文化看護に必要な知識―小児看護に焦点をあてて

河田聡子1)・上田禮子1)
 
 

背景: 昨今、国境を越えて行き来する人は増え、地球全体が多文化社会となりつつある。在日外国人及び海外在留邦人数は増加する傾向にある。このような世界の動向によって、2つ以上の文化の中で生活した経験のある子どもたちも増えつつある。

目的:多様化していく世界の中で、個人を対象とした看護を行っていくにあたり、特に小児看護に携わるものとして知っておくべき知識を考察することを目的とした。

研究デザイン:文献検討

対象:看護学および異文化コミュニケーション学の文献
結果および結論:「異文化」と対応に必要な知識に関して、小児看護に焦点をあてて文献を検討した結果、小児看護に携わる者として、対象の民族性、人種、宗教、出身地などの文化、経験を知ること、異文化グループに関しての人口統計、利用できる社会資源、対象の母国に関する情報、異文化を見る視点となるガイドラインや、アセスメントツール、看護者が自らの文化などの知識が重要であると考察した。

 

キーワード:異文化、小児看護、文化的因子

 
 

I はじめに

昨今、 国境を越えて往来する人は増え、 地球全体が多文化社会となりつつある。
日本においても在日外国人の数は、 外国人登録者数のみで168万6,444人、 在留資格外滞在者を含めると194万人近い人数である (2000年法務省統計)。 また、 2000年の海外在留邦人数は81万1,712人である (外務省統計)。 そして国際結婚の数も年々増加の傾向にある。 このような世界的動向によって、 2つ以上の文化の中で生活した経験のある子どもたちも増えつつある。
今後ますます多様化していく世界の中で、 個人を対象とした看護を行っていくにあたり、 特に小児保健看護において知っておくべき知識を検討することを目的に、 文献的考察を行った。  

 
 

II 異文化の意味

「異文化」 とは広辞苑によると 「生活様式や宗教などが (自分の生活圏と) 異なる文化」 のことである。 同様に 「文化」 とは 「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果であり衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成の様式と内容とを含む」 とのことである 1) 。
「文化」 は、 抽象的な概念である。 社会科学の文献にはおよそ100以上の定義がリストされている 2) し、 社会学者の間では、 文化の定義に関する合意は得られていない 3) という。 理由は、 文化の定義はそれを見る立場によって異なるからである。
Leiningerは、 文化 (Culture) を 「思考、 意思決定、 行動のパターンをつかさどる特定のグループにおいて、 教えられ、 共有し、 伝えられた価値、 信念、 規範、 人生の道である」 と定義した 4) 。 Germainは、 「文化的グループは、 衣服の様式、 食物の好み、 価値、 政治、 言語、 そしてヘルスケア活動などによって顕著に表れる」 と述べている 5) 。 古田らは、 文化とは 「ある集団のメンバーによって幾世代にもわたって獲得され蓄積された知識、 経験、 信念、 価値観、 態度、 社会階層、 宗教、 役割、 時間―空間関係、 宇宙観、 物質所有観といった諸相の集大成である」 6) と述べている。
では、 これらの概念の中で 「ある特定のグループ」 「文化的グループ」 「ある集団」 をどのように限定していくのかという疑問が生じる。 アメリカの看護関連の書物をみていくと、 「文化的グループ」 に関して述べられている内容には、 「民族性」 (Ethnicity)、 「人種」 (Race)、 「宗教」 (Religion)、 霊性(Spirituality)という言葉が多く使われている。
「民族性」 (Ethnicity) の定義も様々であり、 GigerとDavidhizarは、 民族性とは 「あるグループの一つの世代から次の世代に受け継がれる、 社会的、 文化的な遺産である。 共有される民族性とは、 グループのアイデンティティの感覚を創り出す思考である」 と述べている 7) 。 またGilesらは 「同一の民族カテゴリーに属すると自ら見なした個人の集まりである」 8) と述べている。 このように対象が自らどの民族に帰属するのかという意識によって分類される場合もあるが、 外観などから他者によって分類される場合もある。 1998年に出版された 「Children and Their Families」 において民族性 (Ethnicity) をIndexでみると、 髪の性質、 肌のアセスメント、 糖尿病、 成長と発達などが検索される。 検索された部分を見ていくと髪の色ややわらかさ、 直毛かカールがあるか、 肌の色などの人種的な特徴、 糖尿病やCystic Fibrosis (嚢胞繊維症。 Caucasianに多い) の発生頻度が述べられている。
次に人種 (Race) に関しては、 「一つの人口集団がもつ、 他のグループとは異なる生物生理学上の性質のことである。 人口集団のすべての人が、 この性質全てを所有するわけではないが、 全体としてこれらの性質で特徴付けられるように、 人口集団の一般性質のことである」 9) とされる。
さらに宗教(Religion)であるが、 これは霊性(Spiritua-lity)とともに述べられることが多い。 これら霊性と宗教的信仰は、 直接的、 または間接的に子どもと家族の健康に関与する 10) 。 日本では、 宗教について尋ねることがタブー視される傾向にあるが、 宗教は、 清潔、 排泄、 食事、 衣服、 など日常生活習慣の多くに影響を与え、 タブーも存在しているため、 看護を行っていくにあたって重要な視点である。 例えばイスラム教では豚肉や血液を食材とした食事は禁止されているし、 宗派によって女性は家族以外の男性に肌を見せてはいけないなどである。
また地域によって習慣・風習として行っていることで、 健康に関係する行動も多く存在する。 例えばアフリカのいくつかの地域でみられる女児への陰部切除などである。
このように一言で 「文化的グループ」 といっても、 その時焦点をあてているものによって、 その分類は様々であり、 時に民族や人種によるグループであり、 時に宗教によるグループであり、 時に居住する地域によるグループであったりする。 そして、 これらのグループ間の違いが 「異文化」 であると考えられる。

 
 
 

III 看護に関わる文化的要因

前述した 「Children and Their Families」 においては、 看護を行うにあたって知っておくべき文化的事柄が多くのページを割いて述べられている。 例えば 「家族における文化的宗教的影響」 として、 いくつかの文化グループの病気や症状に対する家庭の治療薬(home remedy)、 家庭における子どものケア、 コミュニケーション、 健康に関する信念と活動についてなどである。 ここでの文化グループは、 民族性や人種、 または宗教で分類してあり、 それぞれの一般的傾向を示している。 いくつかを以下に記述する 11) 。
・熱がでたときには、 アイルランド系アメリカ人のみが、 冷たい水で子どもの体を冷やし、 アルコールで体を拭く習慣があり、 その他メキシコ系、 アフリカ系のアメリカ人は一般に毛布で子どもの体を包み暖める
・宗教的タブーとして、 ユダヤ教では一般に牛乳と肉類は決して混ぜてはいけない (同時に食したり、 同じ鍋で続けて料理したり、 同じ器に盛り合わせてもいけない)
・コミュニケーションの特徴として、 中国人と日本人の 「沈黙」 は話の終わりを意味するものではなく、 話し手が聞き手に次の話をする前に要旨を理解してもらいたいと望んでいると考えられる
さらに、 この本の中では 「世界的視野」 (world view) というコラムがあり、 テーマ別に文化的な配慮を必要とする事柄が数多く紹介されている。 いくつかを以下に記述する。
・頭部の手術に関しては、 民族や宗教によっては頭髪が重要な意味を示すことがあるため、 剃毛した頭髪は決して捨ててしまわずに術後に家族の意向を確かめてから処分する 12)
・輸血、 血液製剤の使用を許可していない宗教もあり、 特にエホバの証人においてこれらは禁止されている 13)
・子どもの死に関して、 一部のキリスト教では聖職者が間に合わなければ看護婦が洗礼を行うことがある
・イスラム教では死者を完全な体で葬る必要があるために、 臓器移植を望まない傾向にあり、 また死後解剖も断ることが多い 14)
・子どもの自殺率はスイス、 日本、 スカンジナビア、 東ヨーロッパ系アメリカ人に多く、 イタリア、 ギリシャ、 スペイン系に少ない。 またアフリカ系アメリカ人の若者の間で、 近年急激に増加しつつある 15)
また、 1999年に出版された 「Maternal and Child Health Nursing」 では、 同様に 「文化的能力の焦点」 (Focus on cultural competence) というコラムをもうけており、 内容は例えば以下のようなものである。
・貧血は遺伝的素因があるためにすべての国に同じ確立で生じるものではない。 鎌形赤血球貧血 (Sickle-cell anemia) はアフリカ系アメリカ人に多く、 地中海病 (thalassemia) は地中海沿岸地域の人種に多い。 また遺伝的素因ではないが、 社会経済状態のよくない国から来た子どもの場合は、 鉄分の豊富な食事を摂取しなかったことによる、 鉄欠乏性貧血がみられることがある 16)
・異なる国から来た人々にとって信じている癌の発症原因は、 「悪霊がうろついているため」 「思いもしない細胞が増殖したため」 など異なることがある。 そこで子どもが理解可能な年齢であれば、 親と共に、 彼らが癌の原因をどのように考えているか尋ねることによって、 医療者は親の行動の意味が理解できるようになる。 またそれを知ることで彼らの信仰にあうように治療計画を説明できるので意義がある 17)
上記の癌の原因に関して見られるように行動だけでなく健康に関する概念もまた、 文化に大きく影響を受けている。 子どもの死の原因に関するとらえ方についても、 日本では事故や災害、 がんなどの病気、 寿命、 老衰など生理現象によるもの、 あるいは自殺など内的原因によるものが多いが、 アフリカの子どもによる死の原因は、 事故や病気というものもあるが、 暴力という外的原因が一番多く、 さらに魔法や野生動物など日本の子どもたちには見られないとらえ方がある 18) 。 また、 日本の子ども間であっても、 入院経験がある子どもの方がない者に比較して、 死の原因として暴力を描写 (描画法での調査) する者が多かったという報告もある 19) 。 このように子どもの間接的、 直接的経験、 文化的環境が子どもの健康観、 死生観に与える影響は無視できず、 子どもたちの内的体験を評価していく必要性が示唆されている。
以上のように、 看護に関わる文化的要因は多岐にわたるが、 大別すると 「民族」 「人種」 「宗教」 「地域」による影響であり、 ここに 「経験」 による影響が加味されると考えられる。

 
 

IV 子どもにとっての文化

子どもと文化との関係については、 発達との関係で論じられることに特徴がある。 そのひとつとして、 依田による文化と人格発達との関係を示すモデルがある 20) 。 文化は、 親などの家族構成員の背景として大きな意味を持ち、 各々の文化背景を持つ構成員による家庭生活において、 しつけや家庭教育の方法に影響する。 子どもはしつけや家庭教育を通して親などの文化的影響を受ける。 また、 子どもは食事の仕方、 排泄の仕方などの生理的習慣を学ぶばかりでなく、 人への接し方、 言葉、 物事の操作なども無意識のうちにモデルとなる親の行動を模倣し、 取り入れて同一視していく 21) 。
つまり子どもが親の文化を受け継いでいくのは、 しつけや教育を施す者として、 また模倣学習や同一視する対象として親が身近にいるからである。
就学前の子どもは国籍、 容姿、 性別などにかかわりなくお互いに関心を示すことが多く、 子どもの対人関係は一般に親や教師などおとなの態度に影響を受けている 22) 。 谷口の報告によれば、 日本の幼児教育の現場に外国人の親を持ち、 外国語を母語とする日本語を全く話さない子どもが入ってきても、 幼児の場合は2~3ヶ月で日本人保育士との意志疎通は問題でなくなることが多いという。 むしろ子どもにとって大きな問題になるのは、 母語を忘れてしまうことであり、 家庭で母語を意識的に使用しないと、 成長するにつれ母語を忘れ、 親との意志疎通を欠き、 ときに母国の文化を恥じ、 親子間での文化的なギャップに苦しむ姿があるという 23) 。
母語や母国への誇りが育つかどうかは、 子どもの周りにいる大人の意識そのものが影響している。 子どもに大きな影響を与える社会、 文化圏は、 乳幼児期には家庭、 学童期には家庭から学校へというように、 年齢に伴って広がっていくが、 その社会の中にいる大人の意識や態度は子どもの文化的アイデンティティの形成に大きく影響していくのである。 入院している子どもの場合、 看護職者もまたこの大人の重要な一員である。
また、 基本的生活習慣を学び習得していく時期に入院生活をおくらなければならない子どもに関しては、 両親がどんな習慣を習得させようとしているのかという意向をよく理解する必要がある 24) 。

 
 

V 日本における異文化グループへの看護

看護を行うにあたって配慮すべき文化的要因については先に述べたが、 これらの文化的グループは、 日本の現状ではあまり遭遇しないものである。 また日本の文献には、 「文化」 「異文化」 「民族性」 「人種」 「宗教」 などで検索されるものが数少ない。 一方で、 「在日外国人」 に関して研究され、 記載されているものが多い。
在日外国人に関する報告の多くは、 医療費と言葉の問題に関するものである。
例えば、 医療費は、 保険制度が利用できるか否かが大きな問題となる。 日本の国民健康保険の被保険者になるには、 まず在留資格が必要である。 また在留資格のある外国人でも、 永住者と日本人の配偶者以外は、 「一年以上の滞在が予定される」 などの条件がつき、 なお加入には本人の申請による手続きが必要である。 一方、 在留資格外 (オーバーステイ) の外国人の場合、 出産費用助成や未熟児養育医療など在留資格外外国人にも適用されやすいものはあるが、 手続き窓口が福祉事務所や保健所など行政機関であるために、 本人が進んで相談に行くのに困難を伴っている。 これらの問題に関してNGOなどは支援システムをつくり活動しているが、 全国的実施にはいたらず、 自治体の対応もまちまちである。 医療者のとるべき態度として吉岡は、 診療を求められた場合、 対象が在留資格外外国人であっても医療に携わる者はそれを拒否することはできず、 公務員は通報義務があるとしても、 何よりも患者の生命、 安全を優先すべきであると述べている 25) 。
言葉に関しては、 日本における在日外国人の人口動態の変化に伴い、 実に多様な言語での対応が求められるようになってきている。 これに対していくつかの都道府県が教育委員会で学校教育のために通訳を雇う制度がある。 その他、 外国語での医療相談や、 外国語のできる医者を紹介するなどの活動を行っているNGO (非政府組織) の存在がある 26) が、 こういった活動も地域差が多い。
人口動態の変化と述べたが、 一言で 「在日外国人」 といっても、 これは外国籍の在日者をさす言葉であり、 多くの対象を含む言葉である。 李らによる 「在日外国人の母子保健」 においては、 オールドカマー (戦前・戦中から日本に居住する在日韓国・朝鮮人)、 ニューカマー (90年代以降に主に東南アジア、 南米を中心に来日した新しい外国人)、 欧米人、 オーバーステイ (在留資格外の外国人) に分類しており、 歴史をふまえた人口動向と日本において適用される医療諸制度について詳しい 27) 。 また人口統計のみであれば、 法務省、 外務省のデータベースから検索することが可能である。 現在の日本で在日人口の多い国籍は、 韓国・朝鮮、 中国、 ブラジル、 フィリピン、 ペルー、 アメリカ、 タイであるが、 都道府県毎で在日外国人の出身国にはかなりの傾向がある。
また、 帰国することを前提に在日している外国人の治療をした際に、 継続しつづけなければならない薬物が、 母国では入手不可能であった、 継続ケアが母国では困難であったケースも存在している。 中村は先進国、 発展途上国で母子保健医療サービス上の差があることを分類している 28) が、 実際上個別のケースに対応できるためには、 対象となる者の母国の医療システム、 その家族の経済状態に関してのアセスメントもまた必要である。
もう一つ留意したい視点は、 在日外国人の持つ生活習慣や文化は、 必ずしも彼らの母国の文化と同じではないということである。 アメリカのテキストブックに記載されている日本人の特徴は、 「母乳栄養児のたった半数しか生後1ヶ月までしか母乳が続けられていない」 29) など、 日本人の特徴というには疑問の残る記述がある。 また、 在日中国人の子育てに関する研究において、 日本で子育てをするときには中国での時よりも紙おむつの使用率が高いと報告されている 30) 。 このように外国で生活する時のライフスタイルは、 母国での生活を基盤とはしているものの滞在国の文化や社会状況によって影響を受け変化している。 つまり在日外国人の文化を知ることは、 彼らの母国の文化を知ることと同じではない。 それは一般に人びとが、 他国で生活する時に生活様式を変え、 価値観を変えながら適応していくからである。
以上のように、 在日外国人への看護には、 その地域の外国人の人口動態、 対象に使用できる社会資源、 適用される医療システムそして対象の母国に関する知識 (医療システム、 疫学的特徴など)、 個人的背景や経済状態をアセスメントすることが必要であると考えられる。
また、 ここでは在日外国人への看護として医療問題に言及したが、 異文化の視点から生活様式や習慣、 宗教によって配慮すべきことが存在すること、 また日本国内でも地域による差があることも留意すべきである。

 
 

VI 異文化への対応に必要な能力

多くの看護職者が特に困難を感じるのは、 育児習慣の違い、 家族独特の慣習に対処することである 31) 32) と報告されている。 また、 多様な文化背景を持つ子どもにケアを提供することにフラストレーションを感じ、 時間がかかりすぎると感じているという報告もある。 そして、 これは看護教育の中に異文化への対応についての理論が系統的に浸透していないからであるという。 この報告では、 Gigerらによる文化を越えたアセスメントモデル(Trans-cultural assessment model)が小児保健看護の現場において有用であり、 これを用いることで看護職者は治療計画に全人的なアセスメントと効果的なアセスメントを統合することができると述べている 33) 。 このモデルは母性看護学の分野で日本でも紹介されており 34) 、 内容は、 生物学的変動、 環境コントロール、 時間、 社会的方向づけ、 空間、 コミュニケーションの6項目から形成されている。
看護職者が自分とは異なる文化背景を持つ対称をアセスメントする場合、 文化を越えたインタビューガイドライン 35) 、 文化や霊性に関するいくつかの看護アセスメントツール 36) 、 異文化経営学、 異文化コミュニケーション学の観点から分類された文化の構成要素 37) などの視点は、 どこで活動するとしても対象となる子どもと家族に配慮すべき点について良い示唆を提供してくれる。 ただし、 当然のことながら、 個別性の理解を深める姿勢は重要である。
さらにもうひとつ重要な視点として、 看護職者自らが自分の文化を知ることがある。 なぜならば、 看護職者が対象を見る枠組み自体は、 文化的影響を多大に受けているからである 38) 。 日本人の傾向として発展途上国の人たちに対しては自文化中心主義、 欧米人に対しては相手文化中心主義になる傾向があるとの報告もある 39) 。 従って看護職者は文化的に敏感な能力を養う必要がある。 Campinha-Bacoteによると、 文化的能力は以下のものを含んでいる 40) 。
・異文化に対する自分自身の視野に気づくこと
・文化グループとそのヘルスケア行動に関する知識を増大すること
・文化的ケアの実施とアセスメントを効果的に行うための技術を習得すること
・文化的に敏感なケアの体験や実践との出会いを求めること
また、 異文化コミュニケーションの見地から、 異文化背景を持つ相手との効果的なコミュニケーションに必要な技術として、 マインドフルになる (相手の文化を自文化の尺度で解釈してしまう傾向を克服するために、 自分自身のコミュニケーションに対する自覚を意識的に高める)、 曖昧な状況に対して過度な不安無く対応できる能力をつける、 感情移入 (相手の立場にたって考えられる能力) を高める、 その国の文化や人々に対する興味を持ってみるために努力してその国の言葉を使うなど、 相手に合わせて行動を変容させられる行動の融通性を高めるなどが述べられている 41) 。

 
 

VII 小児保健看護学における異文化看護

異文化という言葉の定義は冒頭で述べたが、 異文化看護は、 Trans-cultural Nursing(文化を超えた看護)、 Cross-cultural Nursing (異文化間の看護)、 Cultural diversity (文化的多様性) に対応する看護の総称として使われていることが多い。
日本での異文化看護に対する教育は、 母性看護の領域で比較的多く実践されている。 一方で、 小児保健看護学の教科書には、 発達的視点から子どもの文化形成に関する記述、 在留邦人や在日外国人についての概要の記載にとどまり多くは記述されていない。 今後の世界の動き、 日本の人口動態、 海外で活動する看護職者の増加を考慮すれば、 小児保健看護の教育や実践の場においても異文化に対する理解は必須であると考える。

 
 

VIII まとめ

以上、 異文化との対応に必要な知識に関して、 小児保健看護に焦点をあてて文献を検討した結果、 対象の民族性、 人種、 宗教、 出身地などの文化、 経験を知ること、 発達的観点から子どもの文化を理解すること、 異文化グループに関しては、 人口統計、 使用できる社会資源、 対象の母国に関する情報(医療システム、 経済状態など)を知り、 個人的背景を理解すること、 文化を越えたインタビューガイドラインや、 文化や霊性に関する看護アセスメントツール、 そして異文化経営学、 異文化コミュニケーション学の観点から分類された文化の構成要素などを参考にすること、 看護者が自らの文化を知ろうと努力することなどが重要であると考察した。

 
 
文 献
1) 広辞苑 第五版, 岩波書店, 1998
2) 古田暁監修、 石井 敏・岡部朗一・久米昭元:異文化コミュニケーション-新・国際人への条件―改訂版, 41-42, 有斐閣選書, 1996.
3) William B.Gudykunst, Bridging Differences-Effective Intergroup
Communication, 1991. ICC研究会訳, 異文化に橋を架ける-効果的なコミュニケーション-, 72, 聖文社, 1993.
4) Leininger, M:Cultural care diversity and universality. New York, National League of Nursing, 47,1991.
5) Germain, C: Cultural care-A bridge between sickness, illness, and disease-.
Holistic Nursing Practice, 6(3), 1-9,1992.
6) 古田暁監修、 石井 敏・岡部朗一・久米昭元:異文化コミュニケーション-新・国際人への条件―改訂版, 42, 有斐閣選書, 1996.
7) Giger J. N. and Davidhizar R. E: Transcultural nursing. St. Louis, Mosby Year Book,1995.
8) Giles H, Johnson P: The role of language in ethnic group relations. In J. Turner,
H.Giles
eds.:Intergroup behavior, 202,University of Chicago Press.1981.
9) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 147,W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
10) Miller M.A.: Culture, spirituality and women's health, JOGNN, 24(3), 257-263,1995.
11) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 148-155, W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
12) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 1334, W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
13) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 1516, W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
14) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 622, W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
15) Anonymous: Suicide among children, adolescents, and young adults-United States, 1980-1992,Journal of School Health, 65(7),272-273, 1995.
16) Adele Pillitteri: Maternal and Child Health Nursing-Care of the childbearing and childrearing Family, 3rd edition, 1273, Lippincott, 1999.
17) 同16), 1567.
18) Pridomore P: Visualizing health, exploring perceptions of children using the draw-and-write method, Promotion and Education, 3(4),11-15,1996.
19) 冨崎悦子, 上田礼子, 津波古澄子:小学校高学年時の健康観, 保健の科学, 41 (11), 865-868, 1999.
20) 依田明:人格の発達 児童心理学講座 (8), 金子書房, 66, 1969.
21) 上田礼子:リハビリテーション医学講座第2巻人間発達学, 医歯薬出版株式会社, 141, 1985
22) 上田礼子監修:親と子の保健と看護, 日本小児医事出版社, 103, 1999
23) 李節子編集:在日外国人の母子保健-日本に生きる世界の母と子-, 医学書院, 109,
1998.
24) 小島操子, 時安眞智子編:看護のコツと落とし穴, 中山書店, 198-199, 2000
25) 李節子編集:在日外国人の母子保健-日本に生きる世界の母と子-, 医学書院, 68-80,
1998.
26) 李節子編集:在日外国人の母子保健-日本に生きる世界の母と子-, 医学書院, 176-186,
1998.
27) 李節子編集:在日外国人の母子保健-日本に生きる世界の母と子-, 医学書院, 36-37,
1998.
28) 伯野直美ほか:在日外国人の母子保健実態調査, 小児保健研究, 52, 564-567, 1993.
29) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 153, W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
30) ?珊, 上田礼子:在日中国人の子育て, 小児保健研究, 55(2), 241, 1996.
31) Capers, C.F. and Talerico, K. L. A path to cultural competency in clinical
Practice. The Nursing spectum, 4(7), 4,1995.
32) Ikeda, J. and Wright, J. Pediatrics in a culturally diverse society. Gerber
Pediatric Basics 76, 10-17, 1996.
33) Davidhizar-R, Havens-R, Bechtel―GA, Assessing culturally diverse pediatric- clients, 1999.
34) 同23), 57.  
35) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 75, W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
36) Vicky R. Bowden, Susan B. Dickey, Cindy Smith Greenberg: Children and Their Families the continuum of care, 156-158, W. B. SAUNDERS COMPANY, 1998.
37) 同1), 43-45.
38) Capers C. F. and Talerico, K. L.: A path to cultural competency in clinical practice, The nursing spectrum, 4(7), 4, 1995.
39) 古田暁監修、 石井 敏・岡部朗一・久米昭元:異文化コミュニケーション-新・国際人への条件―改訂版, 254-, 有斐閣選書, 1996.
40) Campina-Bacote J: Cultural competence in psychiatric mental health nursing, A conceptual model, Nursing clinics of North America, 29(1), 1-8, 1994.
41) William B.Gudykunst, Bridging Differences-Effective Intergroup Communication, 1991. ICC研究会訳, 異文化に橋を架ける-効果的なコミュニケーション-, 190-191, 聖文社, 1993.

資 料
法務省ホームページ http://www.moj.go.jp/
外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/
 
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