島嶼看護

第V章 活動報告

 

第8節 臨地実習教育プログラムの評価
 本事業による臨地実習教育プログラムの評価は、「学生」「大学教員」「島嶼の看護職者」「島嶼の住民」の4者について調査等により行った。
 本教育プログラムを本格的に実施した平成21年度と平成22年度に、上記4者に対して行った調査等を下図に示す。図中の四角は4者それぞれに対するねらいを示している。 
 以下、「学生」「大学教員」「島嶼の看護職者」「島嶼の住民」のそれぞれの評価について述べる。

 

図3-8-1 学部GPによる臨地実習教育プログラム成果の評価

 

「生活者」とは、単に病気や障害をもつ対象ではなく、これまでに生きてきた生活歴も含めて,地域の中で家族や友人・隣人などと関わりを持ちながら,役割を担い、衣食住や日常生活動作(ADL),仕事、余暇、年中行事などの活動を行っている人を言う。
「協働」とは、協力して働いたり活動したりすることであり、看護職や医師などの専門職のみではなく、家族や地域の人々、友人や知人等を含めた協働として捉える。
「ICT活用」とは、Webを利用した教員との相談・師等、情報収集のためのネット検索や文献検索など、ネットワークを介した情報通信技術の活用のことを言う。

1.学生
 本教育プログラムがねらいとしている「生活者の視点」「協働能力」「ICT活用能力」について、平成21年度は、質問紙による全数調査とフォーカスグループインタビュー(以下、FGIという。)を行なった。質問紙は選択肢の設問と自由記述欄で構成されており、主に体験の量的な側面を、FGIは録音して逐語録を作成し、主に質的な側面を把握した。 平成22年度はフォーカスグループを対象に実習記録の分析を行った。
<平成21年度>
 1〜4年次までに開講されている臨地実習科目計16科目のうち、実習施設に宮古島が含まれている5科目を選定し、その科目を履修している学生を調査対象とした。該当する科目は、2年次の「老年保健看護実習T」3年次の「成人保健看護実習U」「老年保健看護実習U」「老年保健看護実習V」、そして4年次の「地域保健看護実習(福祉保健所)」「地域保健看護実習(市町村)」の計5科目6種類であった。これらは全て必修科目で,各科目80名近くの学生が対象となった。
 対象学生の延人数は464名で、そのうち宮古島での実習は56名、本島での実習は408名であった。質問紙の回収率は80.4%であった(表3-8-1)。

 

表3-8-1 対象実習科目毎学生数

                                                     (名)


注)学生数の計は延人数、( )内は回収数または参加数

 

1)質問紙調査
(1)調査の概要
目的
平成21年度に実施される宮古島を含む臨地実習をとおして、学生の、生活者としての視点、多職種との協働、ICT活用について学んだことを把握し、島嶼環境を活かした臨地実習の教育方法の評価・改善に活かすことを目的とした。
方法
調査方法は、前期科目では、平成20年度のパイロットスタディでの調査用紙1(資料3-8-1)をマークシート形式にして用い、後期科目では、前期科目の調査結果から内容を改善し修正した調査用紙2(資料3-8-2)を用いた。調査用紙2は「生活者の視点」3項目、「協働能力」3項目、「ICT活用」5項目にして看護への活かし方の設問を増やし、さらに学びや場面の具体例の記述を追加した。
対象者は、前期科目では、成人保健看護実習Uと老年保健看護実習Uの3年次各78人、及び地域保健看護実習(保健所)の4年次74人で、宮古島グループの人数は成人保健看護実習U5人、老年保健看護実習U21人、地域保健看護実習(保健所)5人であった。後期科目では、老年保健看護実習T2年次82人、老年保健看護実習V3年次78人、地域保健看護実習(市町村)4年次 74人で、それぞれ宮古島グループの人数は2年次12人、3年次10人、4年次5人であった。

(2)結果
前学期開講実習科目
 前期に行った、成人保健看護実習U、老年保健看護実習Uおよび地域保健看護実習(保健所)の学びの結果について述べる。前期科目での調査票の回収率は成人保健看護実習U75人96.2%、老年保健看護実習U73人93.6%、地域保健看護実習(保健所)46人62.2%であった。
 成人、老年保健看護実習Uでの生活者の視点の学びについては、対象者を生活者として捉える場面を2科目とも全体的に50%程度が経験し同様の結果であったが、成人保健看護実習Uの宮古島グループは25%と低くなっていた。対象者の身体的特徴と生活との関連が見える場面をよく体験したかについては、成人保健看護実習Uでは同比率であったが、老年保健看護実習Uは、宮古島グループは70%と高かった。協働能力については、宮古島グループは専門職者同士の協働場面をよく体験したと回答した割合は多く成人保健看護実習Uでは75%、老年保健看護実習Uでは55%であった。家族・友人・地域住民が協働している場面の体験は、本島グループが約15%とかなり低かったが、宮古島グループは50%とほぼ同比率であった。
 ICT活用について、遠隔会議・報告会・カンファレンスは、本島グループは経験しなかった学生が多かったが、宮古島グループは全員が経験していた。他のICT活用については宮古島、本島内グループともに活用は少なかった。
 地域保健看護実習(保健所)については全体的に生活者の視点、協働能力について学ぶ機会は少なかったが、ICT活用についてはネット検索やメールでの報告・相談は約50%が行っていた(表3-8-2)。

 

表3-8-2 前期実習における学生の3つの視点の学び

 

後学期開講実習科目
後期の老年保健看護実習T、老年保健看護実習V、地域保健看護実習(市町村)について述べる。後期科目の回収率は老年保健看護実習T68人82.9%、老年保健看護実習V70人89.7%、地域保健看護実習(市町村)41人55.4%であった。
生活者の視点について、老年保健看護実習Tは生活者として捉える場面の機会は宮古島グループが82%と多かったが、身体的特徴と生活との関連が見える場面の経験や看護に活かす生活者の視点の学びについてよくあったとする回答は、宮古島グループは27%にとどまり多いとはいえなかった。老年保健看護実習Vは生活者の視点を学ぶ機会について宮古島、本島内グループともに44%〜67%がよくあったと回答していた。協働能力については、専門職者同士の協働場面の体験、家族・友人・地域住民が協働している場面、看護に活かす協働能力の学びの3項目ともに、老年保健看護実習Tでは宮古島グループは60%〜80%がよく経験したと回答していたが、本島内グループは15%〜26%にとどまった。また、家族・友人・地域住民が協働している場面の体験は老年保健看護実習Vは宮古島グループはよく体験(55%)していた。
ICT活用について、遠隔会議・報告会・カンファレンスは老年保健看護実習T、老年保健看護実習Vともに宮古島グループは90%が経験していた。また、老年保健看護実習VではICTに対する抵抗感がなくなったとする回答は、宮古島グループは89%と高比率であった。しかし、ネットでの文献検索は0であり、メールでの報告・相談は両グループとも、活用しないとする比率が多かった。
地域保健看護実習(市町村)では、生活者の視点を学ぶ機会について、よく経験したと回答したのは本島内グループ67%、宮古島グループは40%であった。協働能力の、専門職者同士の協働場面の体験及び、看護に活かす協働能力の理解についての学びは、宮古島グループは60%がよく体験した、理解したと回答していた。ICT活用について、遠隔会議・報告会・カンファレンスやネット検索の経験は、宮古島グループは80%と比率が高く、60%がICTに関する抵抗感がなくなったと回答していた。ネットでの文献検索、連絡・相談は両グループとも多いとはいえなかった。(表3-8-3)。

 

表3-8-3 後期実習における学生の3つの視点の学び

 

(3)まとめ
 以上のことから、アンケート調査結果では、生活者の視点については、宮古島でも本島内でも学ぶ機会は同様といえる。協働能力については宮古島では専門職者同士の協働場面を体験する機会は多く、協働能力を看護に活かす学びは深まると考える。家族や地域住民の協働能力を経験する機会は老年保健看護実習科目でよく体験でき、教育方法として有効と考える。
 ICT活用については、宮古島と本学を結ぶことによって学ぶ機会は多くなり、カンファレンス・報告会などの経験からICTに関する抵抗感もなくなり、学習効果は高いといえる。ただ、ネットでの文献検索や連絡・相談は宮古島グループは経験が少なかったことから、その必要性を分析する必要がある。
 事例の記載については、資料3-8-3〜5にまとめた。記述内容は、本島グループが事例として多く多様な内容となっているが、それは対象人数が多く実習場所も複数であったことによると考える。記述内容から、生活者の視点については、その内容ではなく、生活者の視点をもつことで、看護の関わりが良くなるという内容の記載が多く、生活者の視点についての理解は今後の課題と考える。協働能力については、具体例が出され学びの把握に繋がった。ICT活用については空白が多く、理解が十分でないことが考えられた。

2)フォーカスグループインタビュー(FGI)
(1)調査の概要
目的
 FGIの目的は、「生活者の視点」「家族・地域・多職種との協働」「ICT活用」について、学生がどのような実習体験をしたのかを把握し、年次および実習地域毎の特徴を明らかにする事である。
対象および方法
 実習科目毎に、実習施設や時期が類似している宮古島と本島内の実習グループを各1グループずつ選び、計6組12グループについてFGIを実施した。
 FGIは実習最終日に,実習記録の提出などを全て終了した後に実施した。成績とは無関係であることを明確にすることと、聞き取り時のバイヤスを最小にするために、インタビューガイド(資料3-8-6)にそって当該実習科目担当以外の専門科目担当教員が面接を行った。面接は学生の同意を得て録音した。FGIの時間は45分から60分程度で、参加者は3人〜6人であった。
 面接の逐語録から、生活者の視点、家族・地域・多職種との協働,ICT活用のそれぞれについて、「体験の内容と体験の仕方」を要約して記述した(資料3-8-7)。12グループの記述を比較検討し、視点毎の年次別および実習地域別の特徴を把握した。

(2)結果
12グループの逐語録から取りだした実習体験の特徴は以下の通りである。
「生活者の視点」
 生活者の視点として学生が語った内容は、地域とのつながり、生活習慣、本人の意思の尊重、家族や地域とのつながり、本人の生活歴、健康障害と生活の仕方、地域や人々の特徴、高齢者像の変化など、多様であった。生活者の視点に関しては、年次によって違いが見られた。2年次の老年保健看護実習Tでは、生活者としての対象理解にとどまっていたが、3年次老年保健看護実習Uでは利用者の生活行動に即したパンフレットを作成するなど、看護実践につなげていた。成人保健看護実習Uでは入院患者の看護過程を展開する実習であり、健康障害と生活の仕方とのつながりをとらえ看護計画に反映していた。地域保健看護実習では家庭訪問をすることで生活の様子を直接把握するだけでなく、その地域の自然環境や社会環境にも目を向け生活や病気との関連を考えていた。訪問事例については、家族全体を捉え地域とのつながりに注目するなど、述べられていることに問いかけ的な内容が増え、対象像の描き方に深まりが出ていた。宮古島での実習の特徴としては、地域とのつながりや人々のつながりの深さなど,対象理解に焦点があたる傾向があり、成人保健看護実習Uにおいても健康障害と生活との関連に注目する発言が見られなかった(資料3-8-8)。
 以上より、宮古島での実習においては、地域特性を反映した対象理解に焦点が当たりやすいことが考えられることから、実習目標に応じた指導が必要になると思われる。
「協働能力」
 全体を通して、看護師などの保健医療関係者間の協働の他、利用者本人、家族との協働、利用者同士の協働,地域と利用者との協働など,多岐にわたる協働の実際を体験していた。体験の内容や体験の仕方は、実習施設の種類や実習科目によって違っていた。
 2年次には、在宅高齢者の社会的活動を支える人々の協働のありようについて学んでいた。実習先が高齢者の通うサロンやデイサービスであり、利用者の状態に合わせて家族や施設のスタッフが協働して利用者の移送をして社会活動を維持していることに注目をしていた。3年次のケア施設での実習では、看護師や介護士、医師、歯科衛生士、ケースワーカーなど、多くの医療福祉関連職種が情報を共有する場面に接していた。利用者と地域や家族とのつながりについても多く述べられており、宮古島ではその様子を直接見たり、当事者から聞いたりしていた。病棟実習では特殊な健康状態にある患者の治療や看護に関して,医師や訓練士、栄養士などの専門職同士の協働の場面に接していた。訪問看護実習ではケアマネを含めた検討会に参加し、在宅生活を支援するための協働の様子を把握していた。4年次の地域保健看護実習ではさらに協働の範囲がひろがり、特殊な健康問題を持つ人へ専門職や自助グループ、ボランティア同士の協働の他、機関同士の協働もあった(資料3-8-9)。
 宮古島での実習の特徴は、専門職同士の協働や、利用者を支えている地域や家族の協働の状況を直接見聞きする機会が、本島内に比べて多いことである。限られた地域での活動であることから、学生の視野に入りやすいだけでなく、実習指導者や地域の人々が積極的に関わりの状況を見せていたこともあり、多職種間の協働について学びやすい状況にあるといえる。
「ICT活用」
 ICT活用に関しては、年次や地域による違いというよりも、インターネットとのアクセス機会の有無や、活用の必要性によって体験の仕方が違っていた。各年次の実習で、遠隔教育システムを活用した実習報告会や交流会、実習指導担当教員の指導などを体験していた。これらの体験に対する参加学生の反応は,学年を問わず概ね肯定的であった。その内容は、大学にいる教員から助言が得られたことや,双方の学生同士がそれぞれに新たな情報が得られて参考になったこと等であった。
 どの年次でも最も多く活用されていたのは携帯電話によるネット検索で、検索の内容は病気や治療、看護に関する知識,訪問先への地図などであった。4年次の地域保健看護実習では、健康教育や指導に必要な情報や他の保健所での教育内容、十分に見学できなかった実習施設の概要などをネット検索しており、検索の幅や内容に広がりが見られた。
 実習期間中にCP活用のみの目的で本学図書館や宮古島教室を利用することは少なく、携帯電話や自宅、あるいは実習施設、民宿先などのCPを利用しており、学生は、実習先でネット検索の必要性を感じていた(資料3-8-10)。
ICT活用に関する課題としては、早い段階から遠隔教育システム講義などに活用してシステムに慣れる機会をつくり緊張感をなくすこと、遠隔教育システムを用いて共有する教育内容を吟味することなどがあった。以上より、実習でのICT活用を推進するためには、‘ICTが身近に活用できる環境‘’ICT活用の必要性’’ICT活用の習慣化‘が必要だと言える。

3)平成21年度総合考察
 評価結果の概要を述べると、生活者の視点を学ぶ機会は宮古島でも本島内でも同様にあったが、体験の仕方には違いがあった。宮古島では人々のつながりの深さや地域社会とそこで生活をしている人とのつながり、地域の人々の特徴、地域の文化的な背景と生活との関連などに触れる機会が多く、実体験を通して生活者の視点を学ぶ機会となっていた。さらに、民泊は地元の人びととの交流だけでなく、生活の場から援助の必要性に気づくなど、体験を広げる機会になっていた。多職種との協働に関して、宮古島での実習では特に専門職同士の協働や利用者を支える地域や家族の協働の様子、利用者同士が協働している様子を、直接見る機会や当事者から直接話を聞く機会が多かった。以上から、宮古島での実習は様々な協働の元で人々が地域の中で支え合いながら生活していることを学びやすいといえる。
 その一方、例えば入院患者への看護過程を展開する実習である成人保健看護実習において、本島での実習では健康障害の状態と生活の仕方との関連に注目し,看護実践に生かした体験が述べられていたが、宮古島の実習グループではこの科目においても患者同士や地域とのつながりに焦点が当たっていた。これらの特徴をふまえて、実習目標に即した教育方法の工夫が必要である。
 ICT活用については、宮古島と本学を結ぶ遠隔教育システムを活用した学生からは、共有した互いの情報が実習に役立つなど、肯定的に評価していた。共有する情報を吟味することやICT活用への抵抗感をなくすことで、離島だけでなく本島の学生にとっても学習効果を高める可能性が示唆される。ネット検索については、実習科目や実習地域を問わず最も多く活用していたのは携帯電話であった。検索内容は専門知識の他、訪問先への地図なども含まれ多岐にわたっていた。4年生では実習内容の広がりに伴い検索内容が多様になっていた。学生のICT活用のニーズは高く、各実習先で活用できるICT環境の整備はICT活用を促進し、活用能力を高めると思われる。

<平成22年度>
 平成22年度、1〜4年生までに開講している16実習科目のうち、実習施設に宮古島が含まれている科目は、昨年度の5科目(老年保健看護実習T・U・V、成人保健看護実習U、地域保健看護実習)に4年次開講科目の「統合実習」を加えて6科目であった。これらの科目の実習を宮古島で行った者は延べ553名中62名であった。実習施設は県立宮古病院、国立療養所宮古南静園、老人介護福祉施設しもじ長生園、訪問看護ステーションみやこ、居宅老人介護支援事業所てぃだ、宮古島社会福祉協議会、宮古島市、宮古島福祉保健所の8か所であった。学生数は宮古島が26名、本島内が27名であった。

1)実習記録の分析
(1)分析の概要
目的
 学生が実習で「生活者の視点」「協働能力」「ICT活用能力」についてどのような学びをしたのかを把握し、宮古島での臨地実習の学びの特徴を浮き彫りにする。
対象
 実習施設に宮古島が含まれている6科目の中から年内に終了した2〜4年生の5科目の実習グループのうち、宮古島での6か所の実習施設と、それに対応する本島内での6施設(県立南部医療センター、介護老人保健施設アルカディア、那覇市、浦添市社会福祉協議会、南部福祉保健所、宜野湾市保健相談センター)で実習をした学生の実習記録を対象とした。
方法
 実習開始前に学部GPについて全学生に説明をし、実習終了後、該当する学生には趣旨を説明して口頭で承諾を得た。実習科目毎に、実習記録から上記の3つの視点についての学びを記述した箇所を取りだし、それらの内容を概観してまとめた。実習記録の様式は科目によって大きく異なっていることから分析方法は統一せずに、各科目によって工夫することとした。その結果は以下の通りである。

(2)結果
 実習科目毎の内容を、視点毎に示す(資料3-8-11〜14)。
「生活者の視点」
 老年保健看護実習Tでは、宮古島と浦添市のいずれの実習においても、自立高齢者と出会い、地区内での生き生き教室などの活動に参加し、コミュニケーションや観察を通して、過去の生活歴や戦争体験、現在の家族構成や趣味、地域活動、模合などの生活者の視点について把握していた。その生活者の視点と、高齢者の現在の健康や生きがいとをつなげて対象理解を深めていた。その中で、生活者の視点が学びやすい宮古島の例として、老夫婦世帯の妻の趣味(太鼓、三味線など)と地域活動(子供達への読み聞かせ、更正保護会など)、夫の地域活動(方言弁論大会の講師など)を通して、夫婦揃って元気なのは、多くの趣味を持ち、常に人との関わりがあるからだと捉えていた。それが、生きがいや心と体の健康づくりにも繋がることを学んでいた。また、民泊先で高齢者との生活体験をしたことから、庭で栽培している果物やハーブを使った手作りのサラダやジュースを一緒に食べながら、それが民泊先の老夫婦の生活習慣病を予防した健康づくりにつながっていることを学んでいた。
老年保健看護実習Uでは、介護老人福祉施設しもじ長生園(宮古島)と介護老人保健施設アルカディア(浦添市)のいずれでも、生活者の視点として、生活歴や職歴、家族構成、ADLやIADLの状況、生活リズム、生活ニーズなどに着目し学んでいることは同じような傾向であった。その中で、宮古島での学びの特徴として、入所前に住んでいた地域のことや地域行事(トライアスロン大会での応援など)への参加が話題になることがあり、生活者の視点を高齢者本人のみならず、地域まで広げて捉えていく傾向があった。
成人保健看護実習Uでは、宮古島・本島グループともに対象者の背景や生活状況、思い、価値観をまなび、それらに配慮した支援を心がけていた。当該実習では、リハビリテーションや透析療法が組み込まれていたことから、両グループとも生活に視点をおいた学びが多く見られた。特に違いを言うと、宮古島は自宅退院が多かったことから、在宅での生活を意識した関わりが多く見られた。
地域保健看護実習では、地域の中で生活をしている人々への直接的・間接的な活動を見聞きする機会が多かった。人間が地域社会や家族とのつながりの中で生活していることや、その人のライフスタイル抜きには支援活動がうまくいかないことを学ぶ機会を得ていた。さらに、保健指導や家庭訪問などの事業を通して、支援を受ける住民が主体となることや、そのためには対象の意思や考えを把握することが必要であることを学んでいた。ある地域の小児の健康問題を当該集団の生活習慣との関連で捉えるだけでなく、家族の中の人間関係から生じる問題として捉え、それを改善するための方策を家族のライフスタイルを考慮して検討するなど,対象把握や支援策の検討において、生活している人間を社会的な存在として捉える学びをしていた。
「協働能力」
老年保健看護実習Tでは、宮古島と浦添市のいずれの実習においても、生き生き教室などに参加している高齢者同士の支え合い(協働)があることに気づいている学びがあった。その中で、宮古島での学びの例として、高齢者は生まれも育ちも宮古島であることが多く、宮古島ののんびりした環境と、年齢の近い友人や知人が近くにいて、生活や地域行事などで隣近所と日常的につながり、生き生き教室やサロンなどの活動も一緒に参加しながら、老後の生活を高齢者同士が支え合って暮らしていることを学んでいた。
老年保健看護実習Uは施設での実習であり、専門職者同士の協働としては、看護職や介護士、理学療法士、医師との協働を話題にし、情報を共有し合うことで、対象のケアに役立てられることを話題にしている学生がいた。インフォーマルの協働として、家族や親戚、友人とのつながりを話題にした学びがみられた。
成人保健看護実習Uでは、協働能力について、宮古島・本島グループともに協働連携について学んでいた。
宮古島グループは、リハビリは小児〜高齢者まで、急性期〜ターミナルまで患者を見ることがあり、他病院や施設、また看護師など他スタッフとの連携をしながら、上手く連携していること、また、リハビリ室や透析室での医師、看護師、臨床工学士との連携がとれていることを学んでいた。また、離島の患者がいることや自宅退院が多いことから、地域連携室を中心とした退院後の関係職種との連携も学べていた。
 本島グループは、病院内での看護師、リハビリ室との連携が十分でないことから連携の必要性を学んでいた。また、施設転院が多いことからMSWによる転院に向けての連携を学んでいた。自宅退院に向けては、患者の在宅での療養生活を支えるため、様々な職種の人《ドクター、ナース、役場職員、保健師、PT、地域の医療施設など》たちが協力して働いていることを学んでいた。
地域保健看護実習では、協働能力に関して学ぶ機会が多く、宮古島と本島内との実習での体験の仕方や内容にほとんど違いがなかった。2週間の実習は多くが見学・説明であり、実施の体験には受持ちの個別事例への家庭訪問と健康相談があった。実習の場自体が保健所や自治体の保健福祉部門であることから、業務自体が多職種および住民組織との協働で成り立っており、様々な形態の協働のあり方を学んでいた。協働のメンバーとしては、保健師と家庭訪問事例と関連のある保育園の保育士や入院病棟の看護師長のように個人同士の協働の他、多職種で行う様々な事業や会議ではそれぞれの職種が専門性を生かして協働する場面を直接見聞きしていた。協働の方法としては対象に関する情報を交換・共有し、活動や計画策定に生かすなどがあった。
「ICTの活用」
老年保健看護実習Tでは、宮古島で実習した学生は、オリテンテーションの段階で事前に実習指導者と顔を合わせ、実習最終日の報告会では、宮古島教室に実習指導者や住民ボランティアに参加してもらい、実習での学びを共有することが出来た。
老年保健看護実習Uでは、実習中に大学にいる実習指導者とカンファレンスができ、記録だけでは伝えられないことも伝えることが出来たのでとても良かった。また、実習報告会では、自分達の学びを実習で実際に関わった指導者や、他の宮古島の指導者達にも発表出来たことがよかった。さらに、当事者(学生の担当した高齢者)の話しを直接聞くことが出来、顔色や声から、当事者の話している内容や気持がすごく伝わってきたなど、ICTを通しての学びの意義を記述した学生がいた。
 また、ICTがあることにより、宮古の実習指導者から、「お互いに学ぶことが出来た」、「学生の若い意見を聞けて良かった」との反応を直接的に聞くことが可能になってことに対し、学生の学びが看護職者に影響を与えたり、相互に良い方向へと結びつけているということを感じとることができて良かったことを記述した学生もいた。
成人保健看護実習Uでは、宮古島・本島グループともにICTを活用していたが、宮古島グループはどの学生もインターネットによる受持事例に関する疾患、治療の検索や指導パンフレット作成のためのインターネット利用が多かった。本島は附属図書館の利用が多いが、宮古島では附属図書館の利用ができないことから、本島グループより利用の頻度が多くなっていると考えられる。また、宮古島は、カンファレンスや実習報告会等ICTを活用した指導を受ける機会が多かったことから、その学びは多く聞かれた。
地域保健看護実習では、実習記録の中でICT活用に関する記述を求めていなかったため個別な活用状況については把握していない。しかし、実習期間中、大学にいる科目担当教員と、宮古島教室の会議システムを介して学生とのカンファレンスを持ち、遠隔での個別指導を行った。

(3)まとめ
 実習記録内容を分析し宮古島における実習の学びの特徴として以下が浮き彫りになった。
まず、人々のつながりの深さや地域社会とそこで生活をしている人とのつながり、地域の人々の特徴、地域の文化的な背景と生活との関連などに触れる機会が多く,実体験を通して生活者の視点を学ぶ機会になっていた。また、専門職同士の協働や利用者を支える地域や家族の協働の様子、利用者同士が協働している様子を直接見る機会や当事者から直接話を聞く機会が多かった。さらに、病院では、離島の患者や自宅退院が多いことから,在宅での生活を意識した関わりや、地域連携室を中心とした退院後の関係職種との連携を学べていた。民泊は地元の住民との交流だけでなく、生活の場を通して援助の必要性や健康づくりの工夫に気づくなど、体験を広げる機会になっていた。
 ICT活用については、大学と実習施設の指導者、学生、利用者間が画面を通してリアルタイムに交流をもつことができ、学生や実習指導者からICT活用の意義が述べられた。専門書が限られていることからもインターネット利用が多く、学生のICT活用のニーズは高かった。宮古島と本学とを結ぶ遠隔教育システムを活用した学生からは、共有した互いの情報が実習に役立つなど、肯定的に評価していた。

2.大学教員(宮古島で自習指導を担当した実習指導教員)
(1)調査の概要
目的
 宮古島で実習指導を担当した実習指導教員を対象に、実習のプロセスにおける教育方法の変化を把握することである。
対象
 平成21年度及び22年度、宮古島における老年保健看護実習T・U、及び成人保健看護実習U、地域保健看護実習、統合実習を担当した実習指導教員(以下、教員とする)。なお老年保健看護実習Vについては平成21年度のみ、統合実習については平成22年度のみの結果である。
方法
 調査票(資料3-8-15)を用いて、実習前及び実習中における教育方法の工夫改善について、自記式質問紙で回答を求めた。回答を3つの視点(生活者の視点、協働能力、ICTの活用)ごと、及び科目ごとに整理した。

(2)結果
 教員は、学生が3つの視点を踏まえて実習目標が達成できるように、科目ごとに教育方法の工夫改善を試みていた。平成21年度と22年度の結果の概要について以下に記す。
 また、教育方法の工夫改善の前提となる生活者の視点、協働能力、ICTの活用について、科目間での共通した捉え方もあったが、実習目標などの違いにより、強調している部分には科目で違いもみられた。3つの視点の捉え方について、科目ごとに記す。

3つの視点の捉え方
「生活者の視点」
 2年次の老年保健看護実習Tでは、宮古島の歴史・文化の影響を受けながら、公民館や生き生きデイサービスやサロンなどを利用している自立高齢者を対象として、地域の中で友人や隣近所、サロンの仲間などとの関わりを持ちながら生活していることまで含めて捉えていた。
 3年次の老年保健看護実習Uでは、病院や施設に入院・入所中の要介護高齢者が対象であるが、入院・入所前の衣食住や日常生活動作、地域行事などの活動を含めて捉えていた。
 成人保健看護実習Uでは、病院に入院中の慢性病を持ちながら療養する人を対象として、病態像や治療に加え、生活を理解し、療養のセルフケアができるための援助を学ぶために、生活者の視点が不可欠であり、生活の中で生じる健康問題という視点で捉えていた。
 老年保健看護実習Vでは、在宅の要介護高齢者が対象で、単に介護が必要な高齢者と捉えるのではなく、地域文化の影響を受けながら、地域の中で、家族や友人・隣人などと関わりをもちながら、生活を送っている高齢者として捉えていた。
 4年次の地域保健看護実習(保健所、市)では、地域で生活している多様なヘルスニーズを持つ個人・家族・集団が対象であり、生活史や家族関係、食生活などの生活実態を把握し、健康課題を把握し、その解決や健康増進に向けた支援が必要な人々と捉えていた。
「協働能力」
 老年保健看護実習Tでは、自立高齢者に関わっている生き生きサロンの仲間や友人、隣近所、さらに、生き生きサロンで関わっているボランティアや専門職者(看護職者、福祉職者)を加えて、協働として捉えていた。
 老年保健看護実習Uでは、入院・入所中で関わる専門職者(看護師、介護士、医師など)だけでなく、対象の周囲の人々(家族や友人など)まで含めて協働として捉えていた。また、病院においては、地域連携室を協働の要として位置づけていた。
 成人保健看護実習Uでは、宮古島で慢性病を持ちながら療養する人の支援のために、社会資源の活用や協働が必要で、特に災害時に必要と捉えていた。退院に向けた協働として、病院の地域連携室を重要視していた。
老年保健看護実習Vでは、在宅の要介護高齢者を取り巻く社会資源として、専門職者(ケアマネジャー、訪問看護師など)の関わりと、家族や友人、隣近所などの関わりを協働として捉えていた。
 地域保健看護実習では、地域ケアシステムの活用や、他機関と連携することで、健康課題の解決をめざす協働を重視した捉え方をしていた。
「ICTの活用」
 老年保健看護実習T、U、Vでは、実習前のオリエンテーション、実習中の合同カンファレンスや最終日の報告会でのICTの活用を積極的に行っていた。
 成人保健看護実習Uでは、退院指導などでの情報収集の手段として、中間報告会や他の実習グループや学内の教員との合同カンファレンス、報告会でのICTの活用を行っていた。
 地域保健看護実習では、個別指導をする際にICTの活用を行っていた。

教育方法の工夫改善
 教育方法の工夫改善として、各科目で主に共通していた実習前の準備として、3つの視点の学びを強化するために、「実習の手引き」への文言の追加、オリテンテーションや学生への指導を通して、学部GPの一環で宮古島において実習が行われていることや、宮古島の歴史・文化などの理解を深めるために住民ボランティア(民泊、移送、講師)の支援を受けることを勧めていた。それらに加えて、平成22年度には、記録上の工夫として、3つの視点と思われる部分には下線を引くことを説明したり、ICTを活用したオリテンテーションや実習指導者との調整、また実習中のカンファレンスを積極的に計画していた。
 実習中は、実習前に計画した通りに実施することが出来ていた。実習指導者や住民ボランティアの活用、ICTを活用して大学内の教員とのカンファレンスの開催、宮古島サテライト教室でのICTの活用を行っていた。
科目ごとの具体的な教育方法の工夫改善について、以下に示す。

<老年保健看護実習T>
「生活者の視点」
 実習前は、「実習の手引き」において、実習目標に生活者の視点と関連して「地域文化の影響」が記載されていることを確認した。平成21年度は高齢者の健康や生活状況、生活歴などの理解を深めるために住民ボランティアの積極的な活用を促すために口頭で説明しているだけだったが、今年は学生が具体的にイメージ化出来るように写真を用いて説明した。
 実習中は、生き生きデイサービスなどの場所が毎日異なるため、参加する高齢者の特性を地域文化の影響を意識して、交流するように学生に伝えた。それを午後のカンファレンスで話題にし、地域文化の影響が、高齢者の生活史や現在の生活に影響しているかなどをディスカッションした。その際、できるだけ実習指導者にも入ってもらい助言を受けた。
「協働能力」
 実習前は、実習の手引きを作成する際、実習内容に「協働・連携の実際について学ぶ」ことが記載されているのを確認した。
 実習中は、学生に専門職間の協働に加え、インフォーマル間の繋がりや、福祉職が中心の生き生き教室における看護職者の役割について、着目するように、朝のミーティングやカンファレンスを通して説明した。また、看護師と調整し、生き生き教室における健康管理等の看護師の役割について、学生と情報を共有する時間を調整した。
「ICTの活用」
 平成21年度、22年度共に、実習前に、オリエンテーションをICTを活用して宮古島と中継した。その際、サテライト教室のパソコンやインターネットの活用が可能なことを説明した。
 実習中は、合同カンファレンスに、実習指導者に加えて、生き生きデイサービスで直接指導した指導員や看護師(兼移送ボランティア)の参加を調整し、高齢者や地域の特性を活かした学びとして意味づけられるようにした。また、ICTを活用して大学内の科目責任者からの指導を受け、学生は実習の課題を明確にし、翌日の報告会に臨み、学びを深めていた。
 ICTが宮古病院内にあるため、科目は異なるが、学生の学びを深めるために協働プログラムで関わっている病院看護部への参加を調整し、副看護部長と地域連携室師長の参加が実現した。また、住民ボランティアの報告会への参加を調整し実現した。
<老年保健看護実習U>
 平成22年度の特徴は、実習前に大学と宮古病院との協働プログラムにおける「実習指導要領」(「実習の手引き」を含む)の作成に参加し、事前の準備から、実習指導者などと大学の教育目標や老年の実習目的や内容、役割分担、ケースの選定等の情報を共有したことである。特に、実習指導者との役割分担については、昨年は曖昧だった役割を事前に分担し、3日間の実習が効果的に展開できるように、師長及び実習指導者と調整を行った。
「生活者の視点」
 対象(高齢者)の健康や生活状況、生活歴などの理解を深めるために、昨年はボランティアによる地域文化の講話や民泊について、学生に口頭で説明していたが、今年は、具体的にイメージが出来るように、昨年度の写真を用いて説明した。住民ボランティア(講話や民泊)を積極的に活用するよう勧めた。
 「実習の手引き」に「講師ボランティア、移送ボランティア、民泊ボランティア」とのかかわりを通して学ぶことを実習内容として記載し確認した。
「協働能力」
 実習前は、「実習の手引き」に「退職看護職者とのかかわりを通して学ぶこと」や、「協働・連携の実際について学ぶ」ことが記載されていることを確認した。
 実習中は、実習の進め方などについて、昨年以上に師長や実習指導者との情報共有を意識しながら調整を増やして進めた。また、担当ケース以外で参加可能なケアがあれば、実習指導者と調整し学生が参加出来るように調整した。実習指導者とは、「実習指導要領」を,基に、ケースの情報収集や直接ケア、他部門との調整などの役割分担を意識しながら、調整を繰り返し、協働で学生への指導を行った。午後のカンファレンスに実習指導者が参加出来る時間を調整し、学生への助言が出来る環境をつくり、学生の学びを共有した。
 平成21年度はなかったが、22年度は実習中に病棟から依頼のあった支援困難事例のカンファレンスに参加し、アセスメントの重要性やケアの方向性の決定、認知症高齢者のストレングスに着目することなどについて、助言を行った。学生と事例の解決に向けた教員と実習先との協働の場面を意図的に見せた。また、実習2日目終了後に、実習指導者のみならず、ワーキンググループメンバー(協働プログラム)も交えた情報交換を開催し、実習中に起きている情報の共有、課題解決に向けた場に参加した。
 ケースや家族との関わりで戸惑い、泣き出した学生への関わりについて、学生指導の協働で行うことを意図していたため、実習指導者も交えて相談室で学生に対応した。 
「ICTの活用」
 実習前は、実習オリエンテーションでは宮古島の実習指導者とICTを活用して内容を共有し、学生と事前に顔合わせができるよう工夫した。実習前のオリエンテーション時、サテライト教室のハード面(パソコンやインターネットの活用が可能なこと)を説明した。
 実習中は、サテライト教室の使用方法についてオリエンテーションをした。大学にいる科目責任者や他の教員から助言を受けるため、合同カンファレンスはICTを活用して行った。最終日の報告会は、実習コーディネーター、実習指導者、協働プログラムのワーキングメンバー、移送ボランティアが参加した。

<成人保健看護実習U>
 老年保健看護実習Uと同様に、平成22年度は、実習前に大学と宮古病院との協働プログラムにおける「実習指導要領」の作成に参加し、事前の準備から協働で準備を進めた、また、平成21年度は1クール(3週間)であったが、平成22年度は2クールと増やし、実習指導を強化して取り組んだ。
「生活者の視点」
 実習前は、「実習の手引き」は宮古病院用を作成し、手引きに追加した。またそれ以外の施設用に関しても、宮古病院と類似するように文言を変更した。「実習指導要領」の活用として、受け持ち患者選定、看護師の役割、教員の役割を明記し、事前調整に用いた。
 全体オリエンテーションに加えて宮古島グループに対しては、宮古島における生活者の視点についての学び方を説明した。全体的な改善として、生活者の視点を意識的に学ぶために、記録用紙の様式を追加し説明した。また、日々のカンファレンスに生活者の視点の学びを加えた。さらに、民泊ボランティアの紹介や、生活者の視点のキーワードをについて、具体的に考えながら実習目標の確認を行った。
 師長と実習指導者とは、事前研修を通して、生活者の視点を踏まえて実習目標、患者選定や指導方法などを行っていくことの説明や調整を行った。部屋担当看護師には、指導パンフレットや病棟カンファレンスでの助言に生活者の視点を引き出すような関わりを調整した。
 実習中は、カンファレンスなどを通して、受け持ち患者との入院中の関わりや退院後の指導の中で、生活者であることの視点を持ちながら看護展開ができるように助言を行った。ケースカンファレンスで、師長や実習指導者などから生活者の視点に関連した助言を得た。地域文化の理解を深めるために、講師ボランティアによる宮古島の歴史の講話や、方言による医療スタッフと患者とのロールプレイを通して理解を深める機会があった。また、民泊ボランティアの生活や体験などを通して、宮古島で生活をする人の暮らしを考える機会を持った。これらを通して学んだ生活者の視点を、退院指導パンフレット作成で活かされるように個別指導などを行った。
「協働能力」
 実習前に、「実習の手引き」の目標に、「島嶼で慢性疾患を持ちながら療養する人の支援のための協働連携を理解する」を追記した。オリエンテーションにおいて、生活者の視点と同様に、宮古島グループに対しては、宮古島での協働能力の学び方の説明や、協働能力を意識的に学ぶために、記録用紙への追記や、日々のカンファレンスに協働能力の学びを加えた。
 教員の事前準備として、事前研修などを通して、在宅支援に向けた病棟、地域連携室、外来における協働連携や病院内における他職種との協働連携が学べるように患者選定や指導方法などについて師長や実習指導者と調整を行った。地域連携室師長と、退院前調整に学生を参加する機会を持ってもらうことや地域連携室の役割・活動等がみえるようにミニ講義を組んでもらった。退院時に関係する職種、退院先、家族の受け入れ状況などから協働能力を学ぶよう方向付けた。
 実習中は、ケアマネージャーの訪問や会議について常に情報を得て、学生を参加させた。また他の職種、ME管理担当者や薬剤師、理学療法士、栄養士など病棟へ出入りしている時に声かけるようにして、病棟の実習指導者へも相談・調整した。                                    
 受け持ち患者を通して、在宅のケアマネージャーや病棟スタッフとの協働連携、退院に向けての住宅改修など、協働連携について学ぶ機会を調整し、見学実習や説明が受けられるように調整を行った。
「ICTの活用」
 実習前は、「実習の手引き」の中に、「ICT活用を利用し、ICT活用能力を養う」を追記した。事前に計画的に、ICTによる合同カンファレンスの意義について説明し、宮古島と本島グループとの合同カンファレンスや、大学内の教員との合同カンファレンス、実習報告会を組んだ。
 実習中は、「実習の手引き」の目標を学生と確認しながら、実習を進めた。大学とサテライト教室をつなぎ、グループカンファレンスに科目責任者が参加したり、本島グループとの合同カンファレンスを通して、情報共有と意見交換を行った。学生は大学附属図書館と回線をつなぎ、文献検索を行った。

<地域保健看護実習>
「生活者の視点」
 実習前に、学生への事前の課題として、宮古島の地域特性である保健・医療・福祉や住民、行政とのネットワークの強さに着目し、「トライアスロン大会を活用した災害対策」を取り上げていた。実習前の全体オリエンテーションでは、平成22年度は学生に生活者の視点を意識化させるため、日誌への生活者の視点の記載方法に関する説明書類を学生へ配布した。実習開始前に、宮古島市・宮古福祉保健所で実習を行う学生を対象に生活者の視点、関係者との連携などについて討議を深める予定をしたが、平成22年度は調整がつかず、参考資料3点を配布し実習前に熟読するように説明した。
 実習中は、平成21年度は過去の宮古島の実際例として、協働能力が理解しやすい「台風14号災害対策」の講話を実習指導者に依頼し、聴講できる場を設定した。その際、学生には、生活者の視点と関連づけて地域特性を理解するように指導していた。平成22年度は、事前に配布した生活者の視点の例題(具体例)を再度確認することを説明した。学生への指導として、1回目は、各学生の家庭訪問受け持ち事例のアセスメント、課題の抽出、訪問計画立案、2回目は、事例検討会(各事例への具体的な討議課題の検討)、3回目は実習報告会(実習の学びを深める)の中を通して、生活者の視点についての気づきを促した。
「協働能力」
 生活者の視点と同様、学生への事前の課題として、平成21年度は「トライアスロン大会を活用した災害対策」を取り上げていた。実習中の「台風14号災害対策」の際には、学生には、専門職者の協働能力に加えて、住民や行政を巻き込んだ協働能力について理解するように指導していた。また、実習先での事例検討会後に、生活者の視点の実際例を学習させることを意図して、実習指導者の事例紹介を企画して、学生の学びが深まるようにしていた。平成22年度は実習前及び実習中は、生活者の視点と同様な指導を学生に行った。また、実習記録の中で、協働能力について具体的に理解してないことについては、確認して助言した。
「ICTの活用」
 平成21年度と22年度とも、学生の担当事例の訪問計画について、直接宮古島に出かけての指導時間は限られていたが、ICTを活用した遠隔指導を計画した。遠隔指導を実施したことで、指導時間が前年度までと比べて増え、実習中に直接指導することが可能になっていた。また実習中は、健康教育などの準備に必要なプリンターのインクや用紙がなくなった時の補充や、パワーポイントの作り方について、学生同志で学び合うように調整し、TAも含めて、必要なことはICTも活用しながら指導した。

<統合実習>
「生活者の視点」
 実習前は、学部GPの一環で実習を行なうことや、GPの目的を再確認した。老年に配置が決まった学生に対し、学部GPが展開され最終年度であることや、ボランティアの支援があること、高齢者の生活の視点や地域特性として社会資源の活用がわかりやすいことなどの情報を提供した。島嶼選択の学生は、宮古島での実習を選択する時点で、GPの目的を知っており、「生活者の視点」についても実習目標に加えていた。
 実習の対象(高齢者)の健康や生活状況、生活歴などの理解を深めるために、民泊や講話の受講を勧めていたが、平成22年度は初体験の学生が、具体的にイメージが出来るように、昨年度の写真を用いて説明した。特に生活者の視点を学ぶためには、民泊や講話の受講が重要であることを強調し勧めた。
 島嶼選択の学生には、実習前に宮古島の地理、歴史、医療・保健体制について自己学習させ、提出させた。
老年選択の学生には、実習計画書の作成段階で、高齢者のインフォーマルサポートに関心を持っていた学生に、宮古島が家族や住民などのインフォーマルサポートが強いことなどの情報を提供した。そのことを活かして、学生は、入院中の高齢者がインフォーマルサポートを活用した場づくりに関心を持った実習目標を立てていた。また、一人暮らし高齢者の生活に着目した学生に対しては、宮古島の在宅ケアでは高齢者の特性と生活が密着しているため学びやすい環境にあることや、民泊で高齢者との交流を体験すると、生活者の視点が学びやすいという情報を提供した。
実習計画書が出来た段階で、実習先にメールで送信し、その後、ICTをつないで、学生と実習指導者間で調整した。教員は実習調整に同席し、必要時発言した。
 実習中は、2日目にICTを通して、担当ケースの生活の全体像や生活ニーズが情報収集できているかを確認し、不足分については、ケースや家族、訪問看護師などから積極的に情報収集するように指導した。
「協働能力」
 実習前は、宮古島は沖縄本島よりも、インフォーマルサポートやフォーマルサポートが見えやすいため、協働連携についても学びやすい実習先であるという情報を提供した。
 22年度の老年選択の学生が希望していた、@一人暮らしや、A在宅酸素療法中で、協働(インフォーマル、フォーマル)がわかりやすいケースがいるか、受け入れが可能かについて、電話・FAXで確認し、調整を依頼した。
 22年度の島嶼で選択の学生で、@障害児のケースに関わる学生には、関係機関から直接協働連携の情報が聞けるように実習計画書を修正した。また、A医療を中心とした連携を目的としていた学生には、宮古島の離島医療の現状について、事前に県および病院HPで確認するように指導した。実習指導者には、事前に学生が宮古病院の医療連携、および障害児の地域ケアに焦点を当てた多職種の連携を学ぶことを目的の一つにしていることをICTを通して調整や情報共有を行った。
 実習中は、実習2日目にICTを活用して、訪問看護ステーションでの学生には、ケースが療養生活を送る上で支えになっている協働連携(特にインフォーマール)についての情報収集やアセスメントが進んでいるのかなどを確認した。宮古病院での学生には、ケースを中心とした病室内の高齢者同士の交流状況が確認できているか、できていない部分については、実習指導者や部屋担当看護師を活用して、高齢者に関わり、情報収集するように指導した。また、入院している高齢者だけでなく、面会に訪れる家族や隣近所などにも着目し関わることなどを指導した。
 実習先で他職種が係わる業務については、同席して情報を収集し質問するなど、具体的な協働の内容がわかるように工夫した。
「ICTの活用」
 実習前は、実習計画書の目標や内容などについて、実習先で達成可能な状況にあるのかを、学生と実習先の実習指導者を交え、ICTを通して確認する時間を設けた。その時の実習指導者からの助言を受けて、抽象的な所を一部加筆修正し、計画書を完成させた。また、最終日の報告会に実習指導者がICTを活用して参加出来るように依頼し、参加可能な時間を調整した。
 実習中は、実習2日目に、ICTを通して、上記の生活者の視点や協働能力、実習の進捗状況、進めていく上で困っていること、民泊や移送で困っていることがないかなどを確認した。
 実習5日目に、ICTを活用して、学生と教員は大学で、実習指導者はサテライト教室で報告会に参加した。

(3)まとめ
「生活者の視点」
 平成22年度において、実習前に、宮古島で生活者の視点を学生に意識づけるためのオリテンテーションや「実習の手引き」の活用は平成21年度と同様であるが、学びを強化するために、オリテンテーションを工夫したり、学生に生活者の視点の部分には記録への記載を求めたり、教員自身も生活者の視点を意識化して事前準備に取り組んでいた。実習中は、生活者の視点を強化するために、師長や実習指導者、住民ボランティアを積極的に活用していた。
 課題として、平成21年度でも話題になったが、科目により実習目的や対象者、実習施設などが異なり、生活者の視点の捉え方が異なることがある。生活者の視点の捉え方が違うことを共有しながら、実習指導に関わっていく必要があると思われる。
「協働能力」
 平成22年度の最大の特徴は、成人と老年の実習においては、実習先である県立宮古病院と協働プログラムを立ち上げ、互いの実習指導力向上のためのプログラムに取り組んできたことが挙げられる。それが実習前の準備や実習中の実習指導に活かされ、教員と実習指導者との協働能力の向上にはつながっている。
 学生が協働能力を学ぶためには、昨年と同様に専門職者同士の協働や、専門職者と住民(ケース、家族、ボランティアなど)との協働がみられたが、今年はより強化され、生活者の視点や協働を学生に学ばせるために、協働する専門職者が拡大したり、住民を意識したインフォーマルサポートの広がりがみられた。
 課題として、協働プログラムの継続により、実習指導者やスタッフの実習指導力の向上や、教員との情報共有、調整を密に行うことで、教員が実習期間中すべての日程に張り付くのではなく、効率的・効果的な協働での実習指導体制の確立、インフォーマルサポートの協働の活用を推進していくことがある。
「ICTの活用」
 実習前の調整やオリテンテーションでICTを活用していた。また、実習中は、ICTを活用して遠隔で指導したり、カンファレンスへの科目責任者の参加、報告会への実習指導者や住民ボランティアの参加など、平成21年度以上に積極的なICTの活用がみられた。
 課題として、オリテンテーションや調整でのICTをさらに活用することでのオリテンテーションの充実、カンファレンスや報告会の充実ができると考える。

3.島嶼の看護職者
 平成21年度は、学生実習の受入れが個々のスタッフやチームへどのような影響を及ぼしたのかを把握するため実習施設の実習指導者とスタッフ全員を対象に調査を行い、平成22年度は、実習指導者を対象に平成21年度と同様な調査を行った。
 さらに、実習受け入れ施設の実習責任者を対象に実習受け入れに関する調査を行った。

<実習指導者への調査より>
(1)調査の概要
目的
 学生の実習受入れに関する現状を把握(評価)し今後の実習の参考にする。
対象
 平成21年度実習施設8か所(県立宮古病院、県立宮古福祉保健所、宮古島市役所、宮古島社会福祉協議会、介護老人福祉施設しもじ長生園、国立療養所宮古南静園、居宅介護支援事業所てぃだ、訪問看護ステーションみやこ)の実習で直接的・間接的に関わった実習施設スタッフ
平成22年度実習施設6か所(県立宮古病院、県立宮古福祉保健所、宮古島市役所、宮古島社会福祉協議会、介護老人福祉施設しもじ長生園、国立療養所宮古南静園)の実習で直接関わった実習指導者
方法
 調査協力依頼文書と無記名自記式質問紙調査表(資料3-8-16)を実習終了後に実習施設毎に持参・依頼し、調査表を施設で配布し、記入した調査票は個別の封筒に入れ、担当者が回収または郵送返信した。

(2)結果
 平成22年度に回収できたのは、68人中54人(回収率79.4%)であった。そこで、平成21年度の調査結果より実習指導者を抽出、平成22年度の調査結果と比較検討し今後の課題を考察した。
対象者の概要
 平成21年度の調査実施施設数は8箇所で分析対象者数は52人、平成22年度の調査施設数は6箇所で、分析対象者数は54人であった。年代別では、50代が平成21年30.8%、平成22年37.0%と最も多く、性別では各年男性が約1割いた。職種は、看護師が約6割から7割、保健師が約2割で、経験年数は5年以上が平成21年61.5%、平成22年44.4%であった。実習指導経験「あり」は平成21年28人(53.8%)、平成22年37人(68.5%)で、「1〜4回」の指導経験が平成21年26人(50.0%)、平成22年23人( 42.5%)で大半であった。

 

表3-8-4 分析対象者


 

実習受け入れ事前の取り組み
 個人としては、平成21年「実習の手引きを読んだ」42人(80.8%)、次いで「実習生に関する情報を得た」35人(67.3%)、「事例を選定し、対象への同意を得た」34人(65.4%)、「学生に提供する資料の準備をした」25人(48.0%)の順に多かった。平成22年も同様に「実習の手引きを読んだ」43人(79.6%)、次いで「実習生に関する情報を得た」31人(57.4%)、「事例を選定し、対象への同意を得た」「施設内または課内で調整をした」26人(48.1%)の取り組みなどがあった(表3-8-5)。

 

表3-8-5 実習前に個人で取り組んだこと



 

 施設および病棟全体としては、各年で「実習指導のあり方を検討した」21人(40.4%)、25人(46.3%)が多く、次いで、「実習に向けた勉強会の企画・実施」7人(13.5%)、12人(22.2%)、「実習指導マニュアルの作成・見直し」2人(3.8%)、10人(18.5%)の取り組みがみられた(表3-8-6)。

 

表3-8-6 実習前に施設、病棟で取り組んだこと


 

実習を受け入れた結果
実習を受け入れた感想について、平成21年は、「とてもよかった」、「まあよかった」で82.7%は肯定的にとらえており、「あまり良くなかった」11.5%であった。しかし、平成22年は、「とてもよかった」、「まあよかった」で79.7%、「あまり良くなかった」、「良くなかった」で11.2%であった。肯定的な内容では、自分や職場の日々の実践等に関することに平成21年は、看護を見直すきっかけになったが28人(53.8%)と最も多く、次いで利用者の生活や満足度を見直す機会になった・情報交換する機会が増えた21人(40.4%)、ケアの方針について修正する機会になった13人(25.0%)、利用者(患者を含む)・家族の捉え方が変わった12人(23.0%)であった。平成22年も同様に看護を見直すきっかけになったが30人(55.6%)と最も多く、利用者の生活や満足度を見直す機会になった19人(35.2%)、情報交換する機会が増えた18人(33.3%)、利用者(患者を含む)・家族の捉え方が変わった10人(18.5%)の順であった。

 

表3-8-7 自分や職場の日々の実践に関すること


 利用者に関するものでは、平成21年は、「利用者から良い反応を受けた」、「家族から良い反応を受けた」が合わせて76.9%あり、さらに「利用者に変化が見られた」が30.8%であった。平成22年は、「利用者から良い反応を受けた」、「家族から良い反応を受けた」を合わせて59.2%あり、さらに「利用者に変化が見られた」が29.6%であった(表3-8-8)。

 

表3-8-8 利用者に関すること


 本学の実習の理解では、平成21年は、現代の学生像(気質・感性)が理解できた25人(48.1%)、今回の実習目的と内容が理解できた23人(44.2%)、学生の能力(知識・技術・態度)が理解できた21人(40.4%)、実習指員の指導方針が理解できた8人(15.4%)の順であった。平成22年は、今回の実習目的と内容が理解できた26人(48.1%)、学生の能力(知識・技術・態度)が理解できた24人(44.4%)、現代の学生像(気質・感性)が理解できた15人(27.8%)、実習指員の指導方針が理解できた13人(24.1%)の順であった(表3-8-9)。

 

表3-8-9 本学の看護実習の理解に関すること


 学部GPの趣旨に関するものでは、平成21年では、「生活者の視点」について刺激を受けた13人(25.0%)、「協働能力」について考えることに刺激を受けた8人(15.4%)、「ICT活用」について刺激を受けた5人(9.6%)の順であった。平成22年も平成21年と同様で「生活者の視点」について刺激を受けた13人(24.1%)、「協働能力」について考えることに刺激を受けた8人(14.8%)、「ICT活用」について刺激を受けた5人(9.3%)の順であった(表3-8-10)。

 

表3-8-10 今回の学部GPの趣旨に関すること



 実習を受け入れて困ったことに関しては、平成21年は、「とても困った」はいなかったが、「少し困った」が21人(40.4%)であった。また、「あまり困らなかった」17人(32.7%)、「全然困ることはなかった」4人(7.7%)を合わせて40.4%であった。平成22年は、「とても困った」が5人(9.3%)、「少し困った」が18人(33.3%)で合わせて23人(42.6%)であった。また、「あまり困らなかった」16人(29.6%)、「全然困らなかった」3人(5.6%)で合わせて35.2%であった。その困った理由は、平成21年は、「業務に支障が出た」17人(32.7%)、「学生への指導で困った」13人(25.0%)、「教員との連携や調整に困った」4人(7.7%)、「利用者(患者・家族)から苦情が出た」3人(5.8%)であった。平成22年では、「業務に支障が出た」20人(37.0%)、「学生への指導で困った」19人(35.2%)、「教員との連携や調整に困った」5人(9.3%)、「利用者(患者・家族)からの苦情が出た」2人(3.7%)であった。

今後の本学の実習受け入れ
 今後の本学の看護実習を受け入れについて平成21年は、82.7%が「受け入れたい」、「どちらかといえば受け入れたい」で「あまり受け入れたくない」は、7.7%であった。平成22年は、68.5%が「受け入れたい」、「どちらかといえば受け入れたい」で「あまり受け入れたくない」は20.4%であった。本学の実習の受け入れに向けて今後取り組みたいことは、平成21年は、「実習指導技術を高めたい」27人(51.9%)、「現在提供しているケアの改善をしたい」20人(38.5%)、「実習に必要なマニュアルを見直していく」13人(25.0%)、「研修会の受講や大学院の進学など学ぶ機会を得たい」81人(5.4%)であった。平成22年は、「実習指導技術を高めたい」29人(53.7%)、「実習に必要なマニュアルを見直していく」23人(42.6%)、「現在提供しているケアの改善をしたい」16人(29.6%)、「研修会の受講や大学院の進学など学ぶ機会を得たい」81人(4.8%)であった。

(3)まとめと今後の課題
 平成21年と平成22年の調査結果を比較して、実習前には、施設および病棟全体として実習受け入れに関する各取り組みの割合が平成22年は平成21年と比較して高率であった。このことより、実習の受け入れ体制づくりを徐序に行ってきたことが推察される。実習を受入れることで日々の看護実践を見直すよい機会である、本学の看護実習の目的・内容、学生の能力などの理解が深まったなどの評価を得ている。また、実習の受け入れに向けて今後取り組みたいことでは実習指導技術を高めたい、実習に必要なマニュアルを見直していくなど受入れに対して改善・向上心が伺える。反面、実習を受入れて困った割合が若干増加した。その理由に、業務に支障が出た、学生への指導で困った、教員との連携や調整に困った、利用者(患者・家族)からの苦情が出た順に高率で、各々の割合が平成22年は平成21年より高率であった。また、今後の実習の受入れの意向では平成22年は、平成21年と比較して肯定的な回答が低率であった。このことは、自由記述の内容等も加味すると看護職者のマンパワーが十分ではない中、業務が多忙で実習の受入れ(指導など)が困難であること等を示していると考える。
 今後、上記の結果を踏まえ大学は、実習施設における実習指導に向けた勉強会などを通して実習受け入れ体制づくりへのさらなる協働を行う。また、実習指導者の業務多忙に伴う実習指導負担感を多少なりとも軽減できるように、実習指導教員と実習指導者の役割の再確認および事前調整を具体的に行うと共に学生の事前学習の強化などの対策が必要であると考える。

<実習施設責任者への調査より>
(1)調査の概要
目的
 学生の実習受入れに関する現状を把握(評価)し今後の実習の参考にする。

対象
 宮古島での実習施設 8ヶ所の実習責任者9人
宮古病院(2人)・訪問看護ステーションみやこ(1人)・居宅介護支援事業所てぃだ(1人)・宮古南静園(1人)・しもじ長生園(1人)・宮古島市社会福祉協議会(1人)・宮古福祉保健所(1人)・宮古市役所(1人)
方法
 対象者へ事前に公文書を送付し、同意を得て面接時間の調整を行い個人インタビュー を行った。調査は対象者の希望する場所において60分以内で行うものとし、インタビューの内容は対象者へ了解のもと、電子媒体に録音した。録音内容を逐語録に起こし、質問の項目毎に内容の類似性でまとめた。まとめる際、個人が特定できないように留意した。
 質問項目は、「実習生を受け入れて実践現場にどのような変化があったか」、「実習を展開する上で大学に希望・要望したいこと、実習を受け入れていく上での大学」、「施設双方の課題」「宮古島で今後継続して実習を受け入れることについて」であった。

(2)結果
 調査が実施できたのは、実習責任者との日程調整ができなかった1名を除き、7施設8人であった。

対象者の概要
 年代は30代が1人、50代7人で、性別は男性1人、女性7人であった。職種別では保健師2人、看護師5人、その他福祉職が1人であった。役職は、看護部長、課長、班長がそれぞれ1人で、副看護部長が2人、所長が3人であった。

実践現場の変化(表8-3-11)
 学生実習を受入れることで、実習施設の指導者のアセスメント能力や利用者選定、コミュニケーション能力のとり方などの業務のふり返り、気づきにつながっている。また、教員や学生を通して新たな知識や情報を得る機会にもなっている。TA(チィーチングアシスタント)が配置されたことで、実習調整や受入れも良好でかつ、学生の急病時の対応などタイムリーに関われたことへの評価もあった。
 利用者にとっては、学生の関わりが生きがいづくりやコミュニケーション能力を高める機会となりひいては、利用者の表情が明るくなり施設内の雰囲気もよくなった。

 

表8-3-11 学生実習を受入れて見られた実践現場の変化


スタッフ自身

・自身の仕事のスキル(アセスメント能力、課題解決能力)が向上した。
・職員が、自分の仕事を振り返る機会になっていた。
・スタッフは、事前準備で接遇やケアの振り返りや実習中は、コミュニケーションのとり方などを学ぶ機会になっている。
・スタッフは、新しい知識や技術の情報を知るきっかけになっている。
・習指導者講習会を受けてきた人たち(看護師)が、生き生きしている。

実習指導

・スタッフの学生との関わる姿勢が変わった。
・受け入れ態勢へ向けてスッフの意識が変化した。
・学生の受け入れ態勢、環境の整備ができてきた。
・学生に前日に翌日の計画を書いてもらうようにしたことで、事前調整ができるようになった。
・利用者を選定する際、指導者が目的を持って選定するようにした。
・TAがつく実習が受け入れやすく、実習生の急病時の対応などで、非常に助かった。
・TAがいたので調整しやすく、安心して実習指導を行うことができた。

看護業務

・ボランティアコーディネーターとの連携がとれた。
・担当職員として気付かない部分を気付かせてくれる。
・医療や保健、看護と連携(つながり)が深くなってきた。
・学生の新鮮な目での病院への気づきがある。

利用者

・利用者(高齢者)顔の表情や雰囲気がとても良い。
・利用者は孫や曾孫のような存在なので、自分の気持ちや昔の話しを伝えることが出来る機会になっている。
・利用者は、学生の関わりが生きがいにつながるなどいい刺激になっている。
・患者さんからの感謝の言葉と期待の声がある。

その他

・看護師などのOBが病院などへ出入りするようになった。

 

実習を展開する上で大学への希望・要望(表3-8-12)
 実習を展開する上で、実習依頼文書、学生配置、週単位の実習目標の明確化、実習計画などの事前調整の充実などの実習方法の検討、事前調整を密に行ってほしいなどの要望があった。また、指導者に対して、実習終了後に実習指導評価をフィードバックしてほしい、実習学生の能力を伸ばしたい為、学生の情報を事前に得たいなどがあった。大学教員へは、看護の立場から島の健康課題などについて教室や組織の定例会での講話をしてほしい、研修会などの年間計画を協働で立案する、受け持ち事例(患者)への支援などの事例報告のまとめ方などの研修を行ってほしい望があった。

 

表3-8-12 学生実習を展開する上での大学への希望・要望


実習方法

・ 事前調整など

・実習時期について
・実習に関連して関わる他の事業所への実習受け入れ依頼の文書発送
・計画立案は1週目でよいが、実習目標達成に向けた、1週目、2週目の各目標の目安がほしい。
・施設のスペースや休憩室などの問題で、配置学生数は1回につき3〜4名にして、何クールか行う。
(学生に不便をかけていないかと思っているが、気にしなければ問題はない。)
・日々の記録がなく、指導者欄にコメントができなかった。
・今年度は、外科にも実習生が来てほしい
・学生の実習がスムーズにいくように、今までどおりに教員と実習指導者が、事前の情報交換や調整を行う。
・そして実習指導者に、教員からのアドバイスを継続して行ってほしい。
・見学実習でも事前学習が重要である。
・実習の初めに病棟全体のオリエンテーションを受けた方がいい。
・指導保健師とTAとの指導方針などの事前調整が大切である。
・急な実習項目に変更に学生の戸惑いあり、実習前の調整が必要である。
・学生が担当保健師と事前調整を十分行い実習に臨む必要がある。
・看護大学で、地域看護をどこまで学んでいるのか、カリキュラムなどについてを、事前に十分確認する必要がある。
・一業務を通して保健師活動や保健所を理解できるような実習方法を検討したい。
・大学との実習調整は、実習担当保健師が窓口となり個々に行う。

還元

・実習受け入で事前に実習の手引きなどを読んで実習に臨んでいるが、実際の実習指導のフィードバックが欲しい。

学生の情報

・利用者に対して学生が質問攻めで情報収集したとの情報から課題にしてほしい。
・仲間との関係性がつくれないと社会に出て不適応を起こすので、学生の時期から関係性がとれるようにする。
・事前調整で、学生の情報が欲しい。
・既習実習の学生の情報があるとその情報を最大限に活用して、伸ばしていくことが大切。

講義

・ 研修

・看護の立場から、サロンや生き生き教室、民生委員・児童委員の定例会で、健康問題などの講話をしてほしい。
・定期的な勉強会や研修会の時期や内容についてスタッフと調整し年間計画を立案してほしい。                                                         
・スタッフがもつ材料(事例への支援など)のまとめ方などの研修会や指導に大学が関わってほしい。                                                    

 

実習受け入れをしていく上での大学施設双方の課題(表3-8-13)
 大学、施設双方の課題には、学生へ受け持ち事例の選定基準の不明確さ、学生へ受け持ち事例の情報提供の遅さ、実習日程の調整の課題をあげていた。現場の受入れ体制や学生の実習態度より保健師希望学生を優先して実習を受け入れたいとの声もみられた。反面、実習指導を効果的に行えるよう実習担当看護師の配置など病棟の実習体制の構築、併せて学生の宿泊施設の整備をあげていた。また、スタッフが患者を生活者の視点で捉えられるよう離島、地域包括支援センターで学ぶ機会をつくることもあがっていた。

 

表3-8-13 実習受入れをしていく上での大学、施設双方の課題


・施設側の理想は、実習開始前に事例の決定ができ情報提供ができること。
・教員と実習指導者の指導がずれないように事前に調整できたらいい。
・学習する機会が欲しい。
・学生個人についての情報が少なく、実習の成果につながりにくい。
・受け持ち事例の選定基準が不明確である。
・実習日程の調整時の課題。
・できるだけ将来、保健師になりたい学生の実習を受け入れたい。
・保健所保健師が少ないので、保健師になりたい学生の実習を受入れたい。
・学生の態度(居眠りしている学生など)より保健師希望の学生のみを実習で受入れたい。
・宮古病院に実習に来た学生を対象にアンケートをとり、その中から改善点を拾いたい。
・実習病棟には実習担当看護師を置き実習体制を整える。
・大学と病院で実習について定期的に評価を行う。                                                
・学生やスタッフが理想の看護師像、理想の職場になるよう魅力ある関係づくりが大切。                                                       
・初心に戻り、学生の育成、看護師の育成を行う視点で関わる。                                              
・実習を負担なく行えるハード面(宿泊施設の整備など)の体制も整える。                             
・実習指導を効果的に行える人員配置、病棟の体制を検討する。            
・患者を生活者の視点で捉えられるよう、離島、包括支援センターなどで地域医療を学ぶ機会を作る。      
・退院後、地域での生活を見据えて訪問看護への繋ぎ、情報提供ができる機会を作る。

 

宮古島で今後継続して実習を受け入れることについて(表3-8-14)
 今後の実習を受入れに関しては、7施設が継続して受入れたいとの意向を示した。
その理由として、実習受け入れによる学生、実習施設、島全体への波及効果が記載されていた。学生にとっては、島での実習は地域連携を学ぶ場である、住民との関わりを通して自己の育っていく過程を学ぶ機会となる。実習施設にとっては、学生寮確保の要望を出すことで施設拡充に繋がる、病棟全体、病院全体での実習指導体制づくりに繋がる、スタッフの実習指導を通して認定看護師など専門性を活かした看護師が増える機会となる。島全体へは、利用者やボランティアが役立つことでモチベーションの向上、島の中高校生が将来の看護師希望への動機づけになる。島の看護職者の人材確保の視点からも実習は継続してほしいとの声があった。

 

表3-8-14 今後継続して実習を受入れることについて


学生への効果

・島での実習を通して地域連携を学び現場に出ることがこの実習の役割である。
・島で体験を充実することで実りが多い。
・学生とって島での住民の関わりなどを通し自分たちが育っていく過程をみる機会になっている。
・実習の過程での学びを次の指導への動機へ繋げてほしい。
・大学の教員と共に考え、人を育てる上で継続は望ましい。

実習施設への効果

・病院としては、よい影響がある。
・実習時の学生の寮などの施設に確保を要望してる。
・学生への刺激(指導力)が一番必要で質を上げるための指導体制をつくる。
・病棟スタッフや職員全体で看護学生を育てる姿勢に繋がる。    
・島での実習指導を負担なくできる体制を整える。                         
・指導を通して、スタッフが認定看護師、がん専門看護師など専門性を活かした看護師が増える機会になる。  
・自分たちも実習を通して先輩より育てられたので、実習受入れについて全員が了解。

島全体への効果

・利用者も、自分達が役に立つことで日常に変化があり、モチベーションがあがる。
・島の中学生・高校生に実習を通して諸情報が入り、将来の看護師希望へ繋がる。
・島の看護師、保健師の人材確保という観点から、実習は続けてほしい。
・今回のGPでボランティアのモチベーションが上がった。
・地域ぐるみで取り組みたい。                                        

 

(3)まとめ
実習責任者へのインタビューの結果より、学生実習を受け入れることで実践現場の変化は、スタッフ自身の自己の看護技術などを振り返る機会となった、学生受け入れへの意識の変化、指導のあり方への気づき、保健医療との連携の深まりなど、受け入れ側のプラスの変化が述べられていた。また、今後の実習受入れについては、学生、実習施設および島全体への波及効果がみられることから継続して受入れる意向があった。
同時に、今後共実習を継続していく上での課題として、大学側では実習の事前調整や実習方法の検討、施設側では、実習担当看護師の配置体制、保健師希望学生を優先にした実習配置などがあった。
今後、離島での実習を発展させていくために、大学には、詳細に実習の事前調整、実習方法の検討・充実を行うとともに、実習施設からの要望にそった研修会などを継続して企画し、スタッフの実践力および実習指導力の向上に寄与することが期待されている。

4.島嶼の住民(住民ボランティア)
平成21・22年度に、住民ボランティア活動の振り返り調査(資料3-8-17)を実施した。
(1)調査の概要
目的
住民ボランティア活動に参加した体験に関する意識を把握する。
対象
両年共に,実習期間中に宮古島市での臨地実習に関わったボランティア
方法
自記式調査紙を郵送により配布し、記入後返送を依頼した。

(2)結果
平成21年度は、実習に関わった全ボランティアは28人(夫婦4人(4組)、女17人、男7人)で、回収数(率)は17人(60.7%)でその内訳は、夫婦2人(2組)、女11人、男4人であった。年齢は31歳から83歳までで、60歳以上が14人を占めていた。ボランティのタイプ別では、移送ボランティの回答状況が10人中9人と高く、民泊ボランティアが15人中7人、講師ボランティアは3人中1人であった。
 「ボランティアを引き受けた理由(複数回答)」は、“自分にできそうなことだから(11人)”、“依頼内容の興味・関心から(7人)”や“学生を助けたいと思ったから(7人)”などであった。実際にボランティアに使った時間は、事前準備では“1日未満(9人)”などで、ボランティア中では“3日以上1週間未満(6人)”、“1日未満(4人)”、“1日〜3日未満(3人)”、事後処理では、“1日未満(9人)”などであった。
 また、「ボランティア後の宮古島の見方」では、“いい方に変わった(11人)”で、“わるい方に変わった(0人)”であった。「学生に伝えたかったこと(複数回答)」では、“人間関係(14人)”、“言葉・方言(6人)”、“食文化(5人)”などであり、「学生から気づかされたこと(複数回答)」では、“地元のいいところ(11人)”、“看護のこと(9人)”などであった。
したがって、“人間関係”“言葉・方言”“食文化”を学生側がどのように受け取ったのか、ボランティア側の“地元のいいところ”“看護のこと”とは具体的にどのような内容だったのか、今後、調査分析する必要があろう。
 最後の「来年もボランティアを引き受けますか」の質問に対しては、“来年もやりたい(10人)”、“来年は休みたい(4人)”、“別のボランティアをしたい(2人)”であった。“来年もやりたい”と答えた10人では、7人が地元のいいところに気づき、そのうち6人はボランティア後に宮古島の見方がいい方に変わっていた。
 このことから、これら住民ボランティアにおいては、学生との交流が《ボランティア自身が島のストレングスに気づくきっかけ》をもたらした可能性が示唆された。
平成22年度は、17人(57%)から回答を得た。その内訳は、男性8人、女性9人で、年齢は70代が7人と多く、ついで60代が6人であった。ボランティアの種類別では、講師1人、移送6人および民泊10人であった。
 「ボランティアを引き受けた理由(複数回答)」は、ボランティアの種類を問わず、“自分にできそうなことだから(11人)”が多く、ついで“学生を助けたい(7人)”であった。「ボランティア後の宮古島の見方」では、民泊ボランティア10人では、いい方に変化が5人、変化なしが5人で、全体ではいい方に変化が9人、変化なしが7人であった。
 ボランティアを通して「学生に伝えたかったこと(複数回答)」は、ボランティアの種類を問わず、“人間関係(12人)”が多く、ついで“言葉・方言(7人)”、“自分の生き方(7人)”および“生活習慣(7人)”であった。また、“食文化(5人)”と答えたものは民泊ボランティアだけであった。
 逆にボランティアを通して「学生から気づかされたこと(複数回答)」は、“看護のこと(9人)”が多く、ついで“地元のいい面(7人)”、“自分の強さ弱さ(5人)”であった。なお、講師ボランティア(1人)は、地元のいい面と悪い面を気づかされたと答えていた。
 最後の「来年のボランティア」について、“やりたい(10人)”が多く、“休みたい(1人)”と答えたのは講師ボランティアだった。民泊ボランティア10人中6人が“やりたい”と答えたが、4人は“別をやりたい”または“無回答”という状況であった。
 2年間の調査結果はほぼ同様の結果を示していた。以上の結果から、住民ボランティアは学生との交流において、自分にできることで学生を支援したいとの思いが強く、学生に対するメッセージ(伝えたいこと)を持ちながら、地域と自分自身を再認識していることが示唆された。

5.総括評価
1)平成21・22年度GPによる臨地実習教育プログラムの総括評価
 モデル地区における看護実習を通して、学生は地域社会とそこで生活をしている人とのつながり、地域文化的な背景と生活との関連などに触れる機会が多く、実体験を通して「生活者の視点」を学ぶ機会となっていた。「多職種との協働」に関しては、特に専門職同士や地域、家族の協働の様子を直接見聞きする機会が多く、宮古島での実習では様々な協働の元で人々が地域の中で支え合いながら生活していることを学びやすいといえる。地域特性が見えやすいこれらの特徴を生かした上で、科目毎の実習目標に照らして対象理解が深まるよう、教育方法をさらに工夫する必要がある。「ICT活用」については、遠隔教育システムを活用した学生からは、共有した互いの情報が実習に役立つなど、肯定的に評価していた。平成21年度には、共有する情報を吟味することやICT活用への抵抗感をなくすことで、離島だけでなく本島の学生にとっても学習効果を高める可能性が示唆された。平成22年度には何れの実習でも、実習オリエンテーションや実習中の個別指導やカンファレンスなどに積極的にICTを活用しており、活用に対する抵抗感は教員、学生共に少なくなったことが推察された。また、カンファレンスには住民が参加するなど活用方法にも工夫や広がりがでていた。このようなICT活用は宮古島教室の会議システムを活用したものであり、学生が主体的に活用するには至ってはいない。宮古島教室のインターネット環境を活用した検索は積極的に行われていた。平成21年度にも示唆されたが、各実習先で手軽に活用できるICT環境の整備はICT活用を促進し、活用能力を高めると思われる。
モデル地区での実習指導を通して実習指導担当教員は、実習の全過程を通して・実習の様々な場において実習目的に向かう刺激を意識的に重ねる工夫をしており、その成果は学生の学習内容や調査結果に現れていた。平成22年度には前年度の経験を生かしてオリエンテーションの方法や実習記録の書き方の工夫を重ねていた。さらに、平成22年度に立ち上げた大学と県立宮古病院との協働プログラムへの取組みが実習前の準備や実習中の実習指導に活かされ、教員と実習指導者との協働能力の向上にはつながっていた。
 平成21年度に課題として浮上した、生活者の視点などに関する教員間の共通理解を深める事に関しては,話合いをもったが十分とは言えず今後共取り組んでいく必要がある。    
実習施設のスタッフは、実習の受け入れに関して、概ね肯定的に受け止め、その理由としては日々の実践の振り返りの機会や利用者等からの肯定的な反応を得たことであった。実習に関しては、実習目的・内容、学生に関する理解に比べて、実習指導教員の指導方針や学部GPに関する理解は低く、理解を深めるための工夫が必要である。受け入れに向けて行った取り組みで多かったのは実習や学生に関する情報の入手であったが、今後の実習受け入れに向けて取り組みたいこととしては、実習指導技術の向上や現在の看護ケアの改善が多く、実習受け入れを通して実習施設スタッフの教育能力や実践向上への意識が高まっていた。このような状況は平成22年度の同様の調査でも見られた。一方、実習の受け入れによって業務が多忙になったことや実習指導上の困難を感じていた。これはむしろ、現在の実践力の課題が浮き彫りになったことであり、実践力向上のステップとなり得る。課題への対策を講じ、今後の取り組みをすすめていくことが実習によって困った理由を解消することになり、看護実践と実習指導とが共に発展していくと考えられる。 平成22年度から発足した協働プログラムはこれに応えるものと思われる。
 実習に関わった住民ボランティアの大半が、来年も引き受けたいと答えており、学生との交流がボランティア自身に島のストレングスに気づくきっかけをもたらした可能性が示唆された。また、ボランティアを引き受けた理由から、自分にできることで学生を支援したいとの思いが強く、学生に対するメッセージ(伝えたいこと)を持ちながら、地域と自分自身を再認識していることも示唆された。
 以上、平成21・22年度のGP活動による臨地実習教育プログラムについて、学生、大学教員、実習施設スタッフ、そして住民ボランティアを対象に評価を行った結果、目標に向かって成果が得られていることを確認することができた。

2)宮古島に見られた「生活者の視点」「協働能力」を育み、「ICT活用能力」を高める
条件
 2年間の本格的な臨地実習教育プログラムから、宮古島での実習の特徴として以下のことがわかった。まず、人々のつながりや地域社会とのつながりが強く見えやすいため、学生が家族や地域社会とのつながりにおいて、人々を捉える機会が多いことが上げられる。さらに、人々の健康を支えている職種や組織などの仕組みが見えやすく、学生がその連携を直接体験する機会が多い。平成20年度からの3年間にわたって、大学、実習施設、住民ボランティア間で、実習目標を共有するための取組みを重ねてきたことから、学生が教育目標を達成するための機会を積極的に作ることができる。これは、大学・実習施設・地域住民の協働体制によると考えられる。最後に、遠隔地であることから,学習上不利な環境をICT活用によって乗り越える機会が多く、学生、教員、現場の看護職者のICT活用能力が必然的に高まるということがあり。これは遠隔地であることから転じたメリットとも言える。

 

 

 
     
     
     

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