島嶼看護

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9.実習所感

グアム・サイパン・テニアンにおける島嶼保健看護海外実習の所感

学生氏名 下地 千里

 今回、わたしたちと同じ太平洋島嶼で働く看護師の役割を、病院や診療所、訪問看護の実際を見学したり、現地で情報を得ることで、私達が在住している沖縄県での島嶼看護との共通点や課題等を学ぶ目的で、グアム・サイパン・テニアンの海外実習を行った。
初めにグアム大学で、グアムの健康課題の現状を学んだ。健康問題としてあげられるのは乳児死亡率であり、アメリカ本国より2倍とはるかに高く、原因として周辺諸島の貧困の人々が、アメリカ国籍を取得目的に入国してくるため、貧困のあまり乳児死亡率が高いのではないかと推測されている。
その他、TB、喫煙率がアメリカ本国より高いが、DMに関しては、本国とあまりかわらないことや、自殺者に関しては減ってきているが、ミクロネシアの自殺者は多く社会問題になっている現状であった。
 グアム島内にあるグアム大学は、看護科の学生の多くをグアムホスピタル病院に輩出している。正看護師のライセンスを取りたい周辺諸島に働いている準看護師を受け入れたり、地域への実習を行ったりと、地域の特殊性を生かしたカリキュラムで人材育成を行っていた。
 グアムメモリアルホスピタル病院でも、看護師の人材不足は毎年の問題であり、グアム大学からの看護師がその救世主となっているとのことであった。自分たちの住んでいる島で看護師を育て看護を提供していたり、島内での人材では看護師不足は補えず、島外から契約して雇ったり、フィリピンの看護師ライセンス取得看護師を雇ったりして人材をまかなっていた。私の勤務する県立病院も人材不足は年中の課題で、県立看護大学や専門学校で人材を育成し、実習受け入れや卒後就職の推進、採用年齢の緩和策や、日本中から募集をかけている等の取り組みは似ているところであった。
グアムにはグアムメモリアルホスピタル病院があり、心疾患・脳血管障害・がんの治療など高度な医療を提供できる施設があった。グアムの医療だけではなく、周辺の島々からの紹介患者も多く受け入れている。周辺諸島の医療を支えるという大きな役目も担っていた。いろんな人種が受診してくるため、風習の違いや考え方の違いなどでも、看護の場面において苦労なされることがあるとのことであった。そのような習慣の違いを乗り越えた看護を提供するために、患者の訴えや行動を否定せず、無理強いせず、出来るところまで見守り、入院生活が送れるために促されていることに感銘を受けた。
グアムは日本からの観光客が多く、派手なイメージであったが、医療や健康問題はかなりシビアで驚いた。味付けの濃い食事、揚げ物や肉料理などが多く、野菜がすくないなど食に関する問題は山済みであり、肥満度も高くそれに伴った生活習慣病が健康問題の根源であろう。それらに対しては、アメリカ合衆国のファミリープログラムを行っている局が取り組みを行っていた。性教育、TBや感染症の薬剤提供、母子保健事業、予防接種(TDAP,HIV,へパテリア、ポリオ)出生後の検診、低所得者へのフードスタンプ提供、飲食店やエステなど出店許可など行っている局でもあり、施設のあちらこちらにフードスタンプを求めた貧困層と呼ばれる人々の行列があったことにすごく驚いたし心が痛んだ。
局の看護師は、22村に巡回検診も行っているが、4人の看護師でこの仕事のすべてを行っていて、全くマンパワーが足りないと話されていた。
このように不毛な問題とも思われる課題に取り組みながらも、この仕事以外に災害看護チームの一員として活動をしていたり、ひとりの看護師は、私と同じようなテレビ会議システムを使った大学院プログラムで学んでいたりした。島嶼で働く看護師の姿勢やパワーに驚き、尊敬の念でいっぱいになり、同じ島嶼で働く看護師としてすごく励みになった。
サイパンでは訪問看護事業所(マリアナヘルスサービス)研修を行った。訪問に同行すると、ロタ島から父親と弟たちと一緒にロタ政府の援助を受けながら、サイパンのホテルの一室で生活していた天疱瘡の青年と出会った。青年は、ロタ島の診療所で診断つかず、悪化し両大転子部、仙骨部に10cm 大のじょく創を形成し全身の皮膚も水泡とただれでひどくなったため、マリアナヘルスサービスに紹介されてたとのことであった。日本でなら即入院して治療となるだろうが、貧困のため入院ができず政府の援助で生活しながら訪問看護を受けていた。食事も一日20ドルの援助があるが、栄養についての知識がなく、ジャンクフードやお菓子類がホテルの部屋に置かれていた。しかし、部屋は清潔が保たれ整頓されていた。青年と父親が、訪問を心待ちにしている感じが伝わり、私も何かできることはないかと自然と手が動き、訪問PTの介助をしていた。数か月このような生活をしながら治療を受けているだけあって、皮膚の状態もかなり良くなり、じょく創もほとんどが良性肉芽を形成していた。島を離れての治療でも、家族と生活しながら島での生活にできるだけ近い環境で訪問を受けられることは、患者にとって精神の安定となり、それが治療にもいい影響となっていた。訪問での治療はデメリットだけではなく、入院生活より素晴らしいこともたくさんあると感じた。
最後にテニアン島で、島で唯一の診療所テニアンヘルスセンターで実習を行った。ここでの健康問題もグアム・サイパンと同じであった。そこでの看護師は沖縄県立の多良間診療所と似ていたが、違う所は、入院ベッドが3床あり、3日間は入院できるところであった。看護師は3交代制で、医師は自宅待機。勤務者以外はすべてオンコールという過酷な勤務状況にも関わらず、住民の医療を守っているという誇りと責任感で頑張っていた。
太平洋諸島における看護師の役割は、沖縄本島がグアム島、サイパンが宮古島、テニアンが多良間島のような役割であった。私の宮古圏域での救急搬送時は多良間島から宮古島へ、宮古島から沖縄本島へ医療の連鎖が行われており、この体制はテニアン・サイパン・グアムへの医療の連鎖が行われているのと、とても似ていると思った。
テニアン島の看護師は、必然的に島で行える医療看護を理解し、搬送体制の対策、トレーニング、訪問看護、島ならではの住民との協力、など行っている。医療や看護については、衛星やインターネットや研修、実習生の受け入れなどで学びながら、日々の看護に活かしている。自然災害で台風が多いのも似ており、その対策も私たちの島と似ていた。訓練も消防署や空港と合同で訓練することも全く同じであった。
テニアン島も、島であるが故に不便なところもあるが、島ならではの協力体制が取りやすい所や、気持ちが暖かいところ、沖縄でいう「なんくるないさー」や「てーげー」な雰囲気がすごく似ていた。テニアンであった56歳の高齢者が、デイケアーに通所し、ビンゴゲームをしている姿には、さすがに違和感を覚えたが、これも島の平均寿命(男性が50歳代、女性が60歳代)と低い現実を知ったら当然のような気がした。
初めての海外実習で「太平洋諸島の看護師の役割」が私達の宮古島に似ていることを、すごく感じた。テニアンでお世話になった看護師の一人は、「島での生活はプライバシーがなかったり、不便なことも多いが、島や島の人々が大好きだ」と話していた。ハードな勤務であっても、島での看護実践を明るく積極的に行う姿には、とても感銘を受けた。また、島の住民の健康を守っている姿は、凛々しくもあり、頼もしくもあった。
 私も島嶼で働く看護師として、宮古島で頑張っていきたいという気持ちがさらに強くなった。このような機会を設けていただいた関係者の皆様には深く感謝いたします。ありがとうございました。

 

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